日本神話の源流(3)~五つの「種族混合文化」
吉田氏は本の中で、民族学者である岡正雄氏(1898-1982年)の説を引用してます。
岡氏によれば、先史時代の日本列島には、少なくとも5種類の起源を異にする「種族文化複合」が渡来したと想定されてます。
1.母系的・秘密結社的・芋栽培=狩猟民文化
2.母系的・陸稲栽培=狩猟民文化
3.父系的・「ハラ」氏族的・畑作=狩猟民文化
4.男性的・年齢階梯的・水稲栽培=漁労民文化
5.父権的・「ウジ」氏族的・支配者文化
まず最も古い1の「母系的・秘密結社的・芋栽培=狩猟民文化」です。タロ芋栽培を主とするメラネシア原住民の文化と類似している、というのです。日本の正月では里芋を食べますが、この名残だとしてます。
またメラネシアでは、男性秘密結社の祭りがあり、その際仮面・土面をかぶりますが、それは日本のナマハゲに伝わっている、というのです。
ところで欧米にはハロウィンという祭りがあります。もともとはケルト人の祭りで、仮装した子供たちが家々を廻るわけですが、日本でも盛んに行われるようになりました。最近では少し度が過ぎたきらいがないでもないですが、それはそれとして、もしかしたら日本人の深層心理の中に、仮面をして祭りをしたいというものがあるのかもしれませんね。

2の「母系的・陸稲栽培=狩猟民文化」は、縄文時代末期に陸稲栽培を伝えた人々で、オーストロアジア語系としてます。この人々が、太陽神アマテラスや家族的・村落共同体的シャーマニズム・司祭的な役割をもつ女性支配者文化を伝えた、と述べてます。これらは、アマテラスをはじめとした古事記・日本書紀の描く神話の世界に合致してます。また三国志魏志倭人伝の描く「卑弥呼」の姿にも重なります。
また日本の古典に、イロ・ハ(母)、イロ・エ(父)という言葉が出てきますが、これは「イロ」という要素を共通にする同母系呼称です。このことから、日本に「イロ」と呼ばれた母系親族集団が存在し、それは1あるいは2が伝えたのではないか、と推測してます。
岡氏はどこから伝わったのかは書いてませんが、陸稲ということから、中国南部から伝わったことになります。
<アマテラス>

3の「父系的・「ハラ」氏族的・畑作=狩猟民文化」は、アワ・キビなど雑穀焼畑と狩猟文化で、弥生時代初期に、満州・朝鮮半島から、ツングース系統のある種族によって伝えられた、としてます。弥生文化のなかに北方的要素があるといわれますが、それはこの文化です。
面白いのは、私たちは今でもヤカラ(輩)・ハラカラ(同胞)という言葉を使いますが、この文化が関係するというのです。ヤカラとは仲間という意味で使いますが、もともとは同じ血筋を引く人、の意味です。ハラカラは兄弟姉妹のことですが、もともとは同腹の兄弟姉妹(母が同じ)という意味です。
ハラ=カラで、外婚的父系同族集団を読んだツングース系のハラ(Hala)とのことで、2000年以上たった今でもこうした言葉が残っているのは、興味深いところです。
4の「男性的・年齢階梯的・水稲栽培=漁労民文化」は、弥生文化の主体を構成した文化で、紀元前4-同5世紀頃、中国の呉・越などの戦乱により揚子江河口地方より南から伝わった、としてます。弥生文化の南方的要素とされます。水稲栽培のほか、漁労文化も伝えた、としてます。
一昔前の地方にあった、若者宿・娘宿・寝宿・産屋・月経小屋・喪屋など、機能に応じて独立の小屋を建てる風習も、この文化特有とのことです。独立小屋は古事記・日本書紀にもたびたび出てきますので、注目です。
最後が、5の「父権的・「ウジ」氏族的・支配者文化」です。日本列島に支配者王侯文化と国家的支配体制を持ち込んだ、天皇氏族を中心とする種族の文化としてます。4の文化の種族が西から来たアルタイ系騎馬民族によって征服され、国家組織として満州南部において成立しましたが、日本列島には3、4世紀のころ渡来した、としてます。
かつての騎馬民族征服説を想起させますが、騎馬民族征服説は多くの論拠から否定されてます。しかしながら文化の伝播があったことは確かです。
大家族・「ウジ」族・種族というタテの三段で種族が構成され、「ウジ」父系的氏族・軍隊体制・王朝制・氏族制・奴隷制・鍛冶職集団など各種職業集団など所有が特徴としてます。
宗教的には、天神崇拝・父系的祖先崇拝・職業的シャーマニズムなどに特徴づけられ、ユーラシア・ステップ地域の騎馬民族文化と本質的にまったく一致する、としてます。
このように日本の先史文化は、多起源的要素の累積、混交を通して形成された、というのが岡氏の説で、この認識を学界に定着させるのに大きな貢献を果たした、と述べてます。そしてこのことを前提にするなら、日本神話の成り立ちを考える場合にも、その中に起源を異にする諸種の要素が含まれていると予想しなければならない、と述べてますが、当然のことでしょう。
こうした考えのもと岡氏は、たとえば、
(1)オオゲツヒメやウケモチヒメの神の屍体から穀物の種が生じたという神話や、アマテラスの岩戸隠れの神話、イザナギ・イザナミ神話など
⇒ 2の「母系的・陸稲栽培=狩猟民文化文化」による
(2)タカムスビを主神格とする観念や、天孫降臨神話、八咫烏(ヤタガラス)や金鵄(きんし)などの鳥類の活躍によって建国が成し遂げられたという神武天皇東征神話
⇒ 5の「父権的・「ウジ」氏族的・支配者文化」による
と想定してます。
さらに日本の固有文化のなかに、異なる二つの信仰形態が混じりあっているとしてます。すなわち
(1)カミの出現を垂直的に表象する信仰形態
カミは天上にあって、人間界へは山上、森、樹梢に降下してくる
⇒ 3の「父系的・「ハラ」氏族的・畑作=狩猟民文化」
(2)カミの出現を水平的に表象する信仰形態
祖先ー祖霊ー死者ー異形の人間・仮面仮装者、のように信仰形態の表象はより具象的ではあるが定型的ではないものが、かなたから村を訪れてくる
⇒ 1の「母系的・秘密結社的・芋栽培=狩猟民文化」に固有
以上のように述べてます。
私は以上のすべてについて賛同するわけではありませんが、世界各地の膨大な神話を集積して、このようにきれいに整理分類されたことは、驚嘆に値します。ここに敬意を表したいと思います。
大略を、次の表にまとめました。

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