日本神話の源流(15)~本当に中国江南地方が起源か?
たしかにこれらの地域の神話の内容には、日本神話と類似するものがあり、詳細についてもとても偶然とは思えないくらいの、共通性があります。
ここで、日本神話と類似した神話がどの地域に分布しているのかを、図で整理しました。

表をみると、たしかに日本神話と南洋やアジア大陸東南部の神話に、共通性があることがわかります。
ただし、吉田氏も神話の分布を網羅的に調査したわけではなく、もれもあるでしょうし、あるいはかつては語られていたものの、現在ではなくなってしまった神話もあるでしょう。したがってこの表だけであれこれ推測するのは、危険です。
それを頭に入れたうえで、なにがしかのヒントを探ってみます。
日向神話の「失われた釣針神話」では、海幸彦・山幸彦を、「海と山」という対立する宇宙の二大原理としてみなすという「二元論的観想」がみられ、中国江南地方からアッサムにかけて分布していますが、南洋にはみられません。このことから、もともとは南洋にあった神話が中国江南地方などに伝わり「二元論的観想」に発展して、それが日本に伝わったのではないか、と推測できます。
同じように「竜女との結婚」の話は、南洋にはなく、アジア大陸東南部にあります。ということは、竜女との結婚の話は、もともとの神話の発展形でありそれが日本に伝わったのでははないか、と推測できます。
同じく、国生み神話の島生み型の「洪水・兄妹婚・蛭子・神占い」も同様です。
一方、バナナ型神話は、南洋にはあるものの、現代アジア大陸東南部には存在してません。となると、日向神話のうちのバナナ型神話は、南洋から直接伝わったのではないか、という仮説が立てられます。
「死者の国訪問」も、同様です。
また「天岩戸神話」は、アジア大陸東南部に多くあるのに対して、南洋には全くありません。ということは少なくとも南洋起源ではないと推測できます。
以上のように、さまざまに推測できますが、では結局「日本神話はどこから伝わったのか?」でしょうか?。
最近では、アジア大陸東南部(中国江南地方~インドシナ~インドアッサム地方)にかけての地域が発祥であり、そこから伝わった、と考えているようです。そのなかでも
”特に、中国江南地方で発生した神話の影響が、一方で日本に及ぶとともに、他方ではインドシナを経由して、ミクロネシアやポリネシアの島々にまで波及した。”
という説が強いようです(同書P84)。
図で表すと下記のイメージです。

一見すると、この説でもよさそうです。しかしながらこれまでにもお話ししているとおり、メラネシアなど南洋の神話は、中国などの神話に比べると素朴で原始的なものが多いと感じます。このことから、日本神話の発祥地は、メラネシアなど南洋ではないのか、とも考えられます。
それはそれで充分に成り立つ仮説ですが、もう少し突っ込んだ検討が必要です。
前にもお話ししましたが、タイランド湾から南シナ海にかけて、すなわちマレー半島東岸からインドシナ半島にかけての地域は、紀元前70000年-同14000年前までは、スンダランドと呼ばれる大陸があり、生物多様性の豊かな地域だったことが知られています。メラネシアなど南洋には、サフルランドという大陸がありました。
アフリカを出た私たち人類の祖先が南の海岸ルートをたどってやって、このスンダランドにやってきた、と推測されてます。その時期は諸説ありますが、遅くとも50000年前にはやってきたと推測されてます。
彼らはそこで豊かな文明を築き、一部の人々は北上あるいは東方に移動していきました。日本列島には40000~35000年前にやってきたと推定されてます。
やがてスンダランドは温暖化により海面上昇して大陸が水没し、住むところを失った人々が四散したと考えられてます。この時期、日本列島にやってきた人々もいたことでしょう。
もし彼らが神話をもっていたのなら、もともとの神話を日本に伝えたのは彼らだったのではないか、という仮説が生まれるわけです。
もちろんルートとしては、直接黒潮に乗って日本列島にやってきた可能性もありますし、中国を経由した可能性もあります。その過程で神話も少しずつ進化して、話が複雑になっていったのではないでしょうか。一方、メラネシアなど南洋は、スンダランドから渡った人々が伝えたと考えられます。
このように考えれば、こうした地域の神話に類似性がある理由も、説明できます。

もちろん実際には、この図のように単純ではなく、逆方向、たとえば中国から南下してインドシナやメラネシアなどに伝わった神話がある可能性があります。そしてそれらが在地の神話と融合して、独自の神話になっていったのかもしれませんね。
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