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日本神話の源流(27)~全体のまとめと考察

前回まで吉田氏の著書を題材に、日本神話がどこから伝わったのかについて、みてきました。

ここまでのまとめをします。

吉田氏は、伝播ルートとして大きく分けて、
1.中国江南地方から、雑穀・稲作の伝播とともに、日本列島に伝わった。一方、江南地方から南下してインドシナ・メラネシア等南洋にも伝わった。
2.中央アジアステップ地帯の遊牧民が媒介となり、その地域の神話やギリシア神話が東に伝播して、朝鮮半島を経由して、日本列島に伝わった。

という2つのルートを推定してます。
それに加えて、南洋から芋などの古栽培文化とともに、直接伝播した可能性も示唆しています(同書P126)。

これからこの説を検証していきますが、まずはここまで膨大な量の神話・伝承が出てきて、頭がこんがらがってきている方も多いと思われますので、今まで取り上げた神話・伝承と、日本神話の関係を表で整理します。

左欄が日本神話の区分で、南洋・アジア大陸東南部(中国江南地方・インドシナ)・ギリシア・中央アジアステップ地帯・朝鮮半島という地域別に、類似した神話・伝承がある欄は「」と記載しました。なお、同書にない地域等についても、参考までに右欄に記載しました。


日本神話との類似神話地域  

世界に存在する神話・伝承をすべてカバーしているわけではなく、また長い年月を経て消滅してしまったものは、これらをはるかに上回る量であったことでしょう。ですからこれだけのデータを元に議論するのは不充分ですが、あえてそれらを念頭に入れながら、みていきます。

すべてがきれいに分類できるわけではないのですが、大きく分けてA・B・Cの3つに分類できます。

まずAですが、南洋・アジア大陸東南部に分布する神話群です。
国生み・神の殺害と農耕起源(オオゲツヒメ・ハイヌウェレ型神話)・バナナ型神話など、原初的で起源が古そうな神話が多いですね。吉田氏は、中国江南地方を主たる起源地としているようですが、それに対して私は、かつてインドネシア~マレー半島にあったスンダランドではないか、という問題提起をしました。
なお、竜女・水神の娘との結婚は、便宜上「失われた釣り針」に分類してますが、中央アジアステップ地帯・朝鮮半島では「失われた釣り針」の話は出てこないので、ここはむしろCに属すというほうがいいかもしれません。

次にBですが、アジア大陸東南部とギリシア・中央アジアステップ地帯に、分布してます。神話としては、黄泉の国訪問・天岩戸伝説です。

3つめのCですが、ギリシア・中央アジアステップ地帯・朝鮮半島に分布してます。神話としては、天孫降臨です。

おおむね以上のように分類できるのですが、ここで疑問が生じます。

黄泉の国訪問は、南洋に分布する一方で、ギリシア・中央アジアステップ地帯にもあります。地理的に離れているのになぜなのか、という疑問が湧きます。

右端の「その他地域」を見ると、さらに疑問は広がります。

島生みにおいて、イザナミは出産のあとやけどで死んでしまいますが、この女神の体内にある火というモチーフは、北アメリカ先住民の間にあります。また兄妹結婚は、フィンランドにあります。
どちらも、南洋あるいは東南アジア大陸東南部から、遠く離れた地域です。

神の殺害と農耕起源は南洋・アジア大陸東南部に分布する一方で、南北アメリカ・さらにはアフリカにも分布してます。南北アメリカは、南洋から伝播した可能性があるとしても、アフリカとの類似はどのように解釈すればいいのでしょうか?。

バナナ型神話も南洋に分布しますが、一方で、ギリシア・中近東・さらにはアフリカにも分布してます。

失われた釣針は、南洋・東南アジア大陸東南部にありますが、遠く離れたアフリカ・北アメリカ先住民の間にあります。

先ほどの黄泉の国訪問
についても、南洋に分布する一方、ギリシア・中央アジアステップ地帯にも分布してますが、内容が「約束に反したために失敗した」という特異な内容であり、それを伝播の論拠としていることは、これまでにお話ししたとおりです。ところがその特異の内容の神話は、遠く離れた北アメリカにも分布してます。

日食・月食も、アジア大陸東南部にありますが、北欧、シベリアの他、北アメリカ先住民の間にあります。


このような遠く離れた地域にある似たような神話については、どのように解釈すればいいのでしょうか?。

「いやいや偶然類似しただけだ」ということでしょうか?。

吉田氏はたびたび、内容が詳細な部分まで類似していれば伝播と考えざるをえない、と述べてますが、であればたとえばこの黄泉の国訪問の北アメリカ神話との特異な部分での一致は、伝播とみなさざるをえなくなります。
では中央アジアステップ地帯からはるか遠く離れた北アメリカへ、いつ、どのルートで伝播したのかの説明が難しいところです。

中央アジアステップ地帯から東アジアへは、鉄器あるいは青銅器の伝播にともなって伝えられたと推定されます。朝鮮半島での神話は朱蒙(紀元前58-同19年)の時代のころです。

一方、東アジアのモンゴロイドがベーリング海近辺を通って最初に北アメリカ大陸へ渡ったのは、少なくとも15000年以上前です。その後5000年前にも渡ったと推定されてますが、それにしても時期が合いません。

また多くの神話が、アフリカにもありますが、これをどのように解釈すればいいのでしょうか?。

以上のように、吉田氏の説だけでは説明できない要素が、多々あるのです。

皆さんは、どのように考えますか?。

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日本神話の源流(26)~三種の機能 朝鮮および考察

三種の機能の、最終回です。

ここまでの話をまとめると、
”中央アジアステップ地帯の、イラン系遊牧民の神話が、アルタイ系民族によって受け入れられ、朝鮮半島を経て、日本列島に持ち込まれた。”(同書P220)
となります。

では最終通過地点である朝鮮半島には、三種の機能を表す神話があるのでしょうか?。

吉田氏は、檀君神話を挙げ、
”天より降臨し古朝鮮初代の王檀君(だんくん)の父となったとされる、天帝の庶子桓雄(かんゆう)を主人公とする伝説の中に、明瞭に看取される。”(同書P221)
と述べてます。

檀君とは、13世紀末に書かれた『三国遺事』に初めて登場する、伝説上の古朝鮮の王です。

”『三国遺事』が引用するが現存していない「朝鮮古記」によれば、桓因(かんいん、桓因は帝釈天の別名である)の庶子である桓雄(かんゆう)が人間界に興味を持ったため、桓因は桓雄に天符印を3つ与え、桓雄は太伯山(現在の妙香山)の頂きの神檀樹の下に風伯、雨師、雲師ら3000人の部下とともに降り、そこに神市という国をおこすと、人間の地を360年余り治めた。

その時に、ある一つの穴に共に棲んでいた一頭の虎と熊が人間になりたいと訴えたので、桓雄は、ヨモギ一握りと蒜(ニンニク)20個を与え、これを食べて100日の間太陽の光を見なければ人間になれるだろうと言った。ただしニンニクが半島に導入されたのは歴史時代と考えられるのでノビルの間違いの可能性もある。

虎は途中で投げ出し人間になれなかったが、熊は21日目に女の姿「熊女」(ゆうじょ)になった。配偶者となる夫が見つからないので、再び桓雄に頼み、桓雄は人の姿に身を変えてこれと結婚し、一子を儲けた。これが檀君王倹(壇君とも記す)である。

檀君は、堯(ぎょう)帝が即位した50年後に平壌城に遷都し朝鮮と号した。以後1500年間朝鮮を統治したが、周の武王が朝鮮の地に殷の王族である箕子を封じたので、檀君は山に隠れて山の神になった。1908歳で亡くなったという。 ”(Wikipediaより)


檀君

大林太良氏によると、桓雄は主権者、虎は軍事的機能、熊は豊穣の機能にあたるとしてます。

これだけですと、きれいに対応しているのですが、ひとつ問題があります。

”13世紀頃に成立した『三国遺事』は、『魏書』と『古記』から引用したとあるが、現存する『魏書』に檀君に関する記述はない。また『古記』は現在伝わっていない。
檀君神話の元になった伝承があったことは夫余の建国神話、及びツングース系の諸民族に伝わる獣祖神話から察知できる。だが、物語の冒頭の構造は夫余神話からの借り物であって、それにツングース系の獣祖神話を繋ぎ合わせ、物語の結末に檀君王倹という名を嵌め込んだもので、相互に関連のなかった三系統の話を素材にした創作である。これらの傍証からも、檀君神話は朝鮮の古来からの独立を示すための創作説話だろうと推測されており、国家としての檀君朝鮮の実在性も認められない。”(Wikipediaより)


三国遺事は成立が新しいため、この話も後世に創作されたのではないか、と考えられてます。つまり時代が合わないのではないか、という問題です。
もっとも、元となる話は、夫余やツングースの神話にあったことにはなります。

さて吉田氏はさらに

”高句麗王朝の最初の三人の王たちに関係する伝承の中に、三機能体系の反映がみられる。”(同書P223)
としてます。
三人の王とは、朱蒙、子の瑠璃明王類利(るりめいおうるいり)、さらにその子の大武神王です。ちなみに三国遺事では、朱蒙を檀君の子であると記してます。

伝承のなかで、
初代朱蒙は、鼓角(こかく、太鼓と角笛)
第二代の瑠璃明王類利(るりめいおうるいり)は、 
第三代の大武神王 無恤(ぶじゅつ)は、 鼎(かなえ)、金璽(きんじ)と兵物
が対応してる、としてます。

以上を、スキュタイ、日本神話とともに整理したのが、次の表です。



朝鮮神話三種機能
 
吉田氏は、新羅の伝承や、古代匈奴の祭祀やモンゴルのパンテオンの構造などの中に、痕跡が見出される、としたうえで、
”古代朝鮮がインド・ヨーロッパ語族の三機能を受容しそれを日本に伝えた”という自説を補強してます。

さてここまで読んで、皆さんはどのように思ったでしょうか。

たいへんきれいにまとめられており、筋は通っているようにみえます。

ところがです。よくよく考えてみると、必ずしもそうとはいえないのではないか、という疑問も湧きます

どういうことかというと、ある社会において、支配者がいて支配される人々(生産者)がいれば、そこに支配者を守る戦士という人々が必ずいるはずです。つまり三機能というものは、どこの社会においても必然的に存在するものであり、三機能があったからといって、それが伝播したとはいえないのではないか、ということです。

三機能に対応する宝物についても、同じことがいえます。
古代においては、祭祀が日常的に行われたのであり、そうであれば、支配者、戦士、生産者それぞれが、祭祀に関連するなにがしかの物をもったはずです。
ですから、三機能の宝物があったからといって、それでただちに伝播したとはいえないでしょう。

もちろんそこに、偶然とは思えない関連性があるのであれば、伝播したとはいえますが、断定するにはよくよく慎重に検証すべきと考えます。

さて以上で、吉田氏の著書は、終わりです。
次回以降、まとめをしたうえで、その妥当性についてあらためてみていきます。

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日本神話の源流(25)~三種の機能 インド・ヨーロッパ語族

 前回は、日本神話のなかの、三種の機能についてでした。

内容としては、
”日本神話のなかには、
1.主権者=祭司
2.戦士
3.庶民=食料生産
という3つの機能に分かれ、1の主権者と2の戦士が支配者として、3の庶民の上に君臨するのが社会のあるべき姿である、というイデオロギーが表明されている。”

というものでした。

さらにその概念は、
”単に社会のみならず、自然あるいは超自然界の正常な運行のために必要である、とみる考え方が表現されている(同書P206)”
と指摘してます。

この考え方はすでに、フランスの神話学者デュメジルの研究によって、インド・ヨーロッパ語族の古い文化に固有のものだったことが、明らかにされています。

たとえば、
ヒンズー教の「リグ・ヴェダ」
ゾロアスター教の「アヴェスタ」 
・古くは、ケルト・イタリック・ギリシア・ゲルマンなど
です。

さらにこの三種の機能は、社会のみならず、神々の世界(神界)も同様であるとして、
神界も、三種類の神々によって構成されると考えられていた。”(同書P207)
と述べてます。

この例として、ナルト抒情詩、スキュタイの聖宝、古代ローマ・ゲルマン神話を挙げてます。

そして、日本神話のなかでは、アマテラス、スサノオ、オオクニヌシが、その役割を担っている、としてます。

以上を整理したのが、以下の表です。


印欧語族三機能 

神界をひとつづつみていきます。 

まず、主権者グループ(第一機能)の構成ですが、インド・イラン人は、
ヴァルナ・ミトラ・アリヤマン・バガ
という四柱の最高神によって、共同して担当されると観念されており、同様の観念はローマ・ゲルマンの神界にも存在した、としてます。

一方、日本の場合はこれらが、
アメノナカヌシ・アマテラス・タカムスビ・カミムスビ
にあたる、としてます。

ここで、アメノナカヌシ・タカムスビ・カミムスビという神々ですが、
古事記の冒頭にある、「天地初発之時」(あめつちのはじめのとき)、すなわち天地ができたときに、高天原に生まれた神々です。
 
アメノナカヌシは、”高天原の中央にいて、世界万物に君臨する絶対的最高神格”(同書P212)であり、インド・イラン人にとってのヴァルナにあたる、としてます。

同様にして、
・祭司的司法者として、アマテラス
・民族共同体の守護者として、タカムスビ
・富の分配の管理者として、カミムスビ
を挙げ、それぞれイラン人としての、ミトラ・アリヤマン・バガにあたるとしてます。
ローマ・ゲルマン神話にも、同様の神々をあててます。

第二機能、第三機能についても、対応がみられるとしてます。
次の表でまとめました。

印欧語族主神格グループ 


きれいに対応しているようにみえますが、ひとつずつみれば、すんなりと肯定できないところがあります。

たとえば第一機能について、アメノナカヌシ・アマテラス・タカムスビ・カミムスビがあてられてます。
アメノナカヌシ・タカムスビ・カミムスビは、「天地初発之時」に生まれた三柱です。一方アマテラスは、アメノナカヌシの何代かあとの子孫です。

天皇家の先祖であり国土を支配したわけですから、第一機能であることは間違いありませんが、祭司的司法者といえるのか、という問題があります。それをいうなら、他の神秘的魔術師・民族共同体の守護者などには当たらないのか、という疑問が出ます。

世代の異なる三柱に混ざっていることを併せて考えると、すんなりとは腹落ちしませんね。

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日本神話の源流(24)~日本神話のなかの三種の機能 

ここまで、日本の神話の源流について、吉田氏の説をみてきました。
それは、日本神話の一部は、
ギリシア→中央アジアステップ地帯(ナルト抒情詩・スキュタイ神話)→朝鮮半島(高句麗建国伝説)→日本
というルートで、伝播してきたのではないか、というものです。

前に、日本の三種の神器と、古代スキュタイの王家に伝承されていた三点の天来の聖宝とのあいだに、符号がみられることを、紹介しました。そして日本神話には、社会は、
1.祭司=主権者
2・戦士
3.食料生産者=庶民

という三種類の人々によって構成されており、1の主権者=祭司と2の戦士との二部分からなる高貴な出自の支配層が、国土に土着し食料と富の生産に従事する庶民の上に君臨するという形をとって構成されるべきであるとする観念が表明されている、と指摘してます(同書P197-200)

日本神話のなかの神々を、三種の機能別にみると、次の表のように整理されます。

日本神話三種機能

はたしてこのようにきれいに整理できるものなのか、若干の疑問はあります。

たとえば、軍事の機能として、天孫降臨の際に、天孫(ニニギ)を護衛して先駆けとなった大伴・久米氏らの武神が挙げらているのはいいのですが、その一方で、スサノオも挙げられてます。

スサノオについては、微妙なところです。
たしかに高天原を追い出されたのち、出雲にやってきて、ヤマタノオロチ退治などして国を治め、オオクニヌシの義父あるいは祖先となった、ということですから、先駆けとなったといえなくはありません。ただしそれが、アマテラスの護衛として活動したといえるのか、微妙なところではあります。
あくまで「戦闘的な武神」という意味で、ということでしょうか。

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日本神話の源流(23)~朝鮮半島神話との関係 母神伝説

高句麗建国伝説が、日本建国伝説やナルト抒情詩と似ているという話でしたが、吉田氏は、ほかにも似ている点を挙げてます。

朱蒙が高句麗建国のために出発してからの話です。

・朱蒙が扶余の国を去り、高句麗建国に出発しようとしたとき、母の柳花から、五穀の種子を包んだ包みを渡されたが、持ち忘れて旅立ってしまった。
・旅の途中休息していると、二羽の鳩が飛んできたので、「母の女神が私に麦の種子を送らせたのに違いない」といって、弓で射落とした。
・鳩ののどを開くと、麦の種子が見つかった。
鳩に水を吹きかけると、二羽とも蘇生し、元気に飛び去った。

この話がナルト抒情詩の、デメテルがトリプトレモスに麦の種子を授けたという話と似ている、と指摘してます(同書P151)。
あらすじは以下のとおりです。

”デメテルは、エレシウスの伝承によれば、彼女を館に滞在させ親切にもてなしたケレオス王の子の一人、トリプトレモスに特別の愛情をそそぎ、わが子のようにいつくしみ育てたうえに、彼を有翼の竜の引く車に乗せ、麦の種子を持たせて、空から世界に農業を広めてまわらせた。”

さらに、日本神話の天孫降臨の際の、
アマテラスが、愛児のニニギノミコト稲穂を授けて地上の支配者として降臨させた”という話と似ているとしてます。

高句麗建国伝説には鳩が出てきますが、ナルト抒情詩にも鳩が登場します。

出てくるところは、
三羽の鳩になったゼラセが、エクセルテグの矢によって射落とされ、その後エクセルテグによって、自分の傷から出た血をふりかけられ、瀕死の状態から蘇生した。”
という話です。
どちらも、鳩に液体(水、血)を吹きかけると蘇生した、という話で、似てますね。

ところで、”柳花は、高句麗の「祖母神」として、水辺の洞窟に奉祀されていた”とのことです。
このことについて、
”後代の民間信仰において、観音の聖所とされる岩屋という形に変化しながら、連綿として持続している。襄陽(じょうよう)の五峰山洛山寺(ごほうざんらくほうじ)の東方にある「観音大士所住の処」と信じられた海辺の岩窟がある。この岩屋の前にきて、至誠をもって礼拝する者には、青鳥(=鳩)の出現がみられた。
としてます。

これに対して、ギリシアのアルカディアのデメテル神話にも似たような話がある、と述べてます。 

”デメテルがポセイドンに犯されたあとで怒って身を隠したといわれる洞穴は、デメテルの聖所とされる。その奥には怒りの形相をとった女神をあらわした木彫の像が祭られていた。その像は、身体は人間の女性の姿をしていたが、頭は馬形で、その頭からさらに蛇や、その他の野獣の像が生えだしていた。そして片手に海豚(いるか)、もう一方の手には鳩を持っていたという。”

日本建国伝説でも、アマテラスがスサノオの乱暴に怒って、天岩戸に身を隠したという話がありますね。

ここまでで、穀物の種子をわたす、鳩、岩窟といったキーワードが出てきましたので、整理します。

ギリシア・ナルト・高句麗・日本神話比較

たしかに総論としてどの地域の神話も似ているとはいえます。
一方で細かくみると、高句麗建国伝説では3つすべての要素があるのに対して、ギリシア神話は「鳩」と「岩窟」、ナルト抒情詩は「穀物の種子をもたせる」と「鳩」、日本建国伝説では「穀物の種子をもたせる」と「岩窟」のそれぞれ2つの要素だけ、と違いがあります。

したがってこの話だけをもって、神話の伝播を単純に、
ギリシア→中央アジアステップ地帯→朝鮮半島→日本
と説明していいのだろうか、という疑問も湧きます。

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日本神話の源流(22)~朝鮮半島神話との関係 高句麗建国神話

前回まで、ギリシア神話、ナルト神話、スキュタイ神話、日本神話に類似性がみられ、吉田氏はここから神話が
ギリシア→中央アジアステップ地帯→日本
と伝播した、と推測していることをお話ししました。

もしそうであれば、通過地域である朝鮮半島にも、同様の神話があるはずです。今回は、それをみてきましょう。

高句麗建国神話です。
あらすじは、次のようなものです。

天帝の太子カイボソウ(天王郎)は、扶余王の旧都に降下した。
・城の北を流れる青河の河の神に、三人の娘がいた。
・天王郎は、彼女たちを妃としたいと思ったが、逃げられた。
・お付きの者の進言により、宮殿を造り、彼女たちを招き宴を開いた。
・彼女たちが酔ったところで扉を閉めたが、二人は逃げ、長女の柳花だけが捕まった。
・河底に逃げた二人が、河の神に報告したところ、河の神は怒り、使者を送り抗議させた。
・天王郎は深く恥じ、結婚の申し込みをするため、河の神のもとへ行こうと決めた。
天王郎は、河の神の宮殿で自らが天帝の子であることを証明して、河の神の承諾を得て結婚した。
・河の神は、7日たたねば酔いがさめない酒を飲ませ、酔いつぶれた天王郎を柳花とともに、竜車に乗せて昇天させようとした。
・竜車が水上につかないうちに天王郎は酔いからさめ、柳花がさしていたかんざしを取って輿に穴を空け、そこから一人で天に昇っていってしまった。
・河の神は、柳花が自分の教えに従わず、家名を辱めたといって激怒して、彼女の口をしばり引きのばさせ、大伯山の南にある沢に追いやった。
東扶余の国王の金蛙(きんか)は、沢の漁師の「魚を盗む者がいる」との訴えを聞き、網でとらえさせたところ、石の上に座った女があらわれ、自分は天帝の子の妃(柳花)であると名乗った。
・別宮に連れていき幽閉したところ、窓から差しこむ日の光により懐妊して、卵を産み落とした。
・卵から生まれたのが、朱蒙(しゅもう)である。
・朱蒙は、弓の名手となった。

朱蒙は、高句麗初代王の東明聖王(紀元前58-同19年)のことです。日本で、2006年から2007年にかけてドラマとして放映されたので、ご覧になった方もおられると思います。

 高句麗始祖系図


この話について、
”明らかに日本の天孫降臨神話や、ホオリ(ヒコホホデミ)とトヨタマヒメの結婚により天皇家の祖先のウガヤフキアエズが生まれる話と、全体的にきわめてよく似た内容をもつ。”

また、
”・朱蒙が扶余を離れ高句麗の建国に行く途中で、亀の助けによって河を無事に渡ることができた。
という話が、
神武天皇が建国に赴く途中で、亀の背に乗って出現したシイネツヒコの助けによって、海を渡ることができた、という神武東征神話中のエピソードと類似している。”
と述べてます。

このように、高句麗建国伝説と日本神話のなかの建国伝説的と共通点がみられることから、
”後者(日本神話建国伝説)が前者(高句麗建国伝説)から何らかの影響を受けたことは、ほとんど確実と考えられる。”
と指摘してます。

さらにこの話が、ナルト抒情詩のエクセルテグとゼラセの結婚話とよく似通っている、としてます。

これだけではわかりにくいので、高句麗伝説(天王郎ー朱蒙の父)、日本建国伝説(海幸彦ーウガヤフキアエズの父)、ナルト抒情詩(エクセルテグ)の話を、比較表にまとめました。

ナルト・高句麗・日本建国伝説

高句麗伝説(天王郎)とナルト抒情詩(エクセルテグ)の話では、三姉妹の一人を妻としているのに対して、日本建国伝説(海幸彦)の話では姉妹は二人です。
また天王郎は柳花を捕らえ、エクセルテグは鳩の姿をしたゼラセに重傷を負わせるなど、過激ともいえる経緯で妻と近づきになるのに対して、海幸彦とトヨタマヒメの話では、海の宮殿を訪れた海幸彦にトヨタマヒメが一目惚れするなど、ロマンチックに出会いそのまま結婚してます。

そのほか、義父がいるのは朱蒙だけであり、魔術によって宮殿や墓を出現させる話は、日本建国伝説にはありません。

以上のとおり、細部では異なる描写も多いですが、全体的なストーリーはよく似ている、といえそうです。


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プロフィール

青松光晴

Author:青松光晴
古代史研究家。理工系出身のビジネスマンとして一般企業に勤務する傍ら、古代史に関する情報を多方面から収集、独自の科学的アプローチにて、古代史の謎を解明中。特技は中国拳法。その他、現在はまっている趣味は、ハーブを栽培して料理をつくることです。
著書です。



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