古事記・日本書紀のなかの史実 (73) ~出雲国風土記との違い
久々の投稿になります。
実は、 シリーズ第七巻の出版準備中で、大わらわといったところです。
題名は
「古事記・日本書紀の中の史実①
天地開闢(かいびゃく)からアマテラス誕生まで」
の予定です。
出版は7月になりそうですが、その際はよろしくお願いいたします!!
=======================
オホナムチは、スサノオから神宝を奪い、スセリヒメとともに根の堅州国から脱出します。そして宇賀の山のふもとに宮殿を建ててスセリヒメと住むことになりました。
以上は古事記のストーリーですが、出雲国風土記では違うストーリーが語られています。
出雲の郡 宇賀の郷
”天の下をお造りなされた大神の命は、神魂(カミムスビ)命の御子の綾門日女(アヤトヒメ)命に求婚なされたが、そのときアヤトヒメは承諾せずに逃げて隠れなされた。この時、大神が(探しまわって)伺い求められたところがすなわちこの郷なのである。だから宇賀という。”
同じ宇賀の地の話ですが、古事記では、オホナムチの相手はスセリヒメなのに対して、出雲国風土記では、アヤトヒメです。
オホナムチすなわちオオクニヌシは女好きだから、この手の話がいろいろあるのだ、との説明もできますが、なんともしっくりきません。
たとえそうであったとしても、せめて出雲国風土記にも、スセリヒメの話が記載してあってしかるべしです。ところが一切記載はありません。ではなぜ記載されていないのか?、という疑問が残ります。
もうひとつ、このあと出雲国風土記には、興味深い記載があります。
”この郷の北の海の浜に磯がある。脳(なつき)の磯と名づけている。高さは一丈ばかりで、上には松があり、茂って磯まで続つづいている。里びとたちが朝夕行き来している。[が、その松並木もそれに]似ている。また木の枝は人がしっかりつかんで引き寄せているかのごとく[下に伸び出ている]である。
磯から西の方に窟戸(いわやと)がある。高さと広さとはそれぞれ六尺ばかりである。岩窟の内部に穴があるが、人は入ることはできない。どれだけ深いかわからないのである。夢の中でこの磯の岩屋近くまで行ったものは、必ず死ぬ。だから世人は昔から今にいたるまで、これを黄泉(よみ)の坂・黄泉の穴と呼びならわしている。”(以上「風土記」(吉野裕訳)より)
とあります。
脳(なつき)の磯について、
”おそらくは菜(魚)付の磯で、古く漁獲の生産儀礼などの行われた場所であろう。”としています。
さてこの黄泉坂・黄泉の穴ですが、島根県出雲市猪目町にある猪目洞窟ではないかといわれています。
”猪目湾の西端にある海蝕大洞穴で、洞口は東に向き、幅36m、中央部 高さ約12m、奥行き約50mであり、奥に進むにしたがって幅と高さとを減じ、トンネル状の岩隙となる。洞底には凝灰岩の巨塊小片微砂等が推積している。昭和23年10月の漁港修築中に、偶然推積層から各種の遺物が発見された。遺物は層序的に良好な保存状態で存するもので縄文式土器、弥生式土器、貝釧及び土師器、須恵器、各種木製品からなり、人骨も埋存している。日本海沿岸の洞窟遺跡として学術上価値が高い。”(Wikipedia「猪目洞窟」より)
写真からですが、なんともいえない黄泉の国の出入り口にふさわしい雰囲気のようです。

ところで古事記には黄泉の比良坂が出てきます。こちらは島根県松江市東出雲町に伝承があります。では、黄泉坂と黄泉の比良坂との関係はどうなるのでしょうか?
そもそも出雲国風土記には、黄泉の比良坂の話は一切出てきません。古事記であれだけ大きく取り上げているのであれば、出雲国風土記にも記載されるのが自然です。ではなぜ、記載されていないのでしょうか?
もともとの出雲神話は、出雲の西側に集中しています。門脇禎二氏によれば、西出雲の勢力は東出雲の勢力に征服されたわけですから、西出雲の神話が東出雲の神話に取り込まれた可能性があります。
となると、古事記の黄泉の比良坂も、もともとは西出雲にある黄泉坂(猪目洞窟)の神話が、東出雲の黄泉の比良坂として置き換えらえた可能性も考えられます。
あるいは黄泉の国という概念が古代出雲にあり、出雲の各地でそれにふさわしい場所が祭祀儀式の場として存在し、あるいは伝承として伝えられたのかもしれません。
このように考えると、オホナムチの神話も、もともとは西出雲のものであったものが、東出雲の神話にとりこまれた可能性があります。
そしてオホナムチのモデルとなるような支配者たちが各地にいて、彼らの伝承がオホナムチという一人の神に統合されていったという仮説も成立しそうです。
このように考えると、古事記の記載と出雲国風土記の記載が異なる理由も説明できますし、それぞれの伝承同士に矛盾があるのも当然ですね。

↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!
最後まで読んでくださり最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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「古事記・日本書紀の中の史実①
天地開闢(かいびゃく)からアマテラス誕生まで」
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オホナムチは、スサノオから神宝を奪い、スセリヒメとともに根の堅州国から脱出します。そして宇賀の山のふもとに宮殿を建ててスセリヒメと住むことになりました。
以上は古事記のストーリーですが、出雲国風土記では違うストーリーが語られています。
出雲の郡 宇賀の郷
”天の下をお造りなされた大神の命は、神魂(カミムスビ)命の御子の綾門日女(アヤトヒメ)命に求婚なされたが、そのときアヤトヒメは承諾せずに逃げて隠れなされた。この時、大神が(探しまわって)伺い求められたところがすなわちこの郷なのである。だから宇賀という。”
同じ宇賀の地の話ですが、古事記では、オホナムチの相手はスセリヒメなのに対して、出雲国風土記では、アヤトヒメです。
オホナムチすなわちオオクニヌシは女好きだから、この手の話がいろいろあるのだ、との説明もできますが、なんともしっくりきません。
たとえそうであったとしても、せめて出雲国風土記にも、スセリヒメの話が記載してあってしかるべしです。ところが一切記載はありません。ではなぜ記載されていないのか?、という疑問が残ります。
もうひとつ、このあと出雲国風土記には、興味深い記載があります。
”この郷の北の海の浜に磯がある。脳(なつき)の磯と名づけている。高さは一丈ばかりで、上には松があり、茂って磯まで続つづいている。里びとたちが朝夕行き来している。[が、その松並木もそれに]似ている。また木の枝は人がしっかりつかんで引き寄せているかのごとく[下に伸び出ている]である。
磯から西の方に窟戸(いわやと)がある。高さと広さとはそれぞれ六尺ばかりである。岩窟の内部に穴があるが、人は入ることはできない。どれだけ深いかわからないのである。夢の中でこの磯の岩屋近くまで行ったものは、必ず死ぬ。だから世人は昔から今にいたるまで、これを黄泉(よみ)の坂・黄泉の穴と呼びならわしている。”(以上「風土記」(吉野裕訳)より)
とあります。
脳(なつき)の磯について、
”おそらくは菜(魚)付の磯で、古く漁獲の生産儀礼などの行われた場所であろう。”としています。
さてこの黄泉坂・黄泉の穴ですが、島根県出雲市猪目町にある猪目洞窟ではないかといわれています。
”猪目湾の西端にある海蝕大洞穴で、洞口は東に向き、幅36m、中央部 高さ約12m、奥行き約50mであり、奥に進むにしたがって幅と高さとを減じ、トンネル状の岩隙となる。洞底には凝灰岩の巨塊小片微砂等が推積している。昭和23年10月の漁港修築中に、偶然推積層から各種の遺物が発見された。遺物は層序的に良好な保存状態で存するもので縄文式土器、弥生式土器、貝釧及び土師器、須恵器、各種木製品からなり、人骨も埋存している。日本海沿岸の洞窟遺跡として学術上価値が高い。”(Wikipedia「猪目洞窟」より)
写真からですが、なんともいえない黄泉の国の出入り口にふさわしい雰囲気のようです。

ところで古事記には黄泉の比良坂が出てきます。こちらは島根県松江市東出雲町に伝承があります。では、黄泉坂と黄泉の比良坂との関係はどうなるのでしょうか?
そもそも出雲国風土記には、黄泉の比良坂の話は一切出てきません。古事記であれだけ大きく取り上げているのであれば、出雲国風土記にも記載されるのが自然です。ではなぜ、記載されていないのでしょうか?
もともとの出雲神話は、出雲の西側に集中しています。門脇禎二氏によれば、西出雲の勢力は東出雲の勢力に征服されたわけですから、西出雲の神話が東出雲の神話に取り込まれた可能性があります。
となると、古事記の黄泉の比良坂も、もともとは西出雲にある黄泉坂(猪目洞窟)の神話が、東出雲の黄泉の比良坂として置き換えらえた可能性も考えられます。
あるいは黄泉の国という概念が古代出雲にあり、出雲の各地でそれにふさわしい場所が祭祀儀式の場として存在し、あるいは伝承として伝えられたのかもしれません。
このように考えると、オホナムチの神話も、もともとは西出雲のものであったものが、東出雲の神話にとりこまれた可能性があります。
そしてオホナムチのモデルとなるような支配者たちが各地にいて、彼らの伝承がオホナムチという一人の神に統合されていったという仮説も成立しそうです。
このように考えると、古事記の記載と出雲国風土記の記載が異なる理由も説明できますし、それぞれの伝承同士に矛盾があるのも当然ですね。

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