日本語系統論(5)~名詞の数と類別
今回は「言語類型地理論」の7つのうちの、C.名詞の数と類別です。C-1 名詞の数のカテゴリーとC-2.名詞の類別の2つに分類されます。
C-1 名詞の数のカテゴリー
名詞の単数・複数の区別についてです。
”英語・ドイツ語などヨーロッパのすべての言語は、名詞に少なくとも単数と複数の区別があって、いわゆる可算名詞では、有生名詞と無生名詞を問わず、単数・複数の区別が義務的である。
日本語では、「男たち」「子供ら」「野郎ども」「殿方」「旦那衆」「友だち」など、必要に応じて随意に使われているだけで、文法上義務的なカテゴリーとして義務化されているわけではない。”(P109)
英語では、男の単数は「man」、複数は「men」と明確な区別があります。日本語でも「男」と「男たち」のように区別しますが、いつも必ずというわけではありませんね。たとえば、
・私には友だちがいる
の場合、それが一人の場合もあるし、二人以上の場合もあります。これが”文法上義務的なカテゴリーとして義務化されているわけではない”という意味です。
このタイプの分布も、流音特徴と形容詞タイプの分布と類似した分布圏を作っています。すなわち、
・複式流音型(LとRの区別有)
・形容詞体言型
の分布と、名詞の数のカテゴリーが文法化された言語が、類似した分布です。

C-2.名詞の類別
”ドイツ語やロシア語などで、名詞は「男性」「女性」「中性」という3つの類に分かれる。伝統的な西洋文法で、「性gender」は、ラテン語のgeneraに由来するもので、本来は単に「類」の意味である。
日本語の名詞には性に相当する文法カテゴリーは存在しない。その代わり、日本語で物を数えるときは、人間ならば「ひとり」「ふたり」、動物ならば「一匹」「二匹」、本ならば「1冊」「2冊」というように、指示物の種類によって違った数え方をする。”
英語には男性名詞、女性名詞はありませんが、フランス語にはあります。たとえば、
以上を言語学的にいうと、
・性のように名詞自体を文法カテゴリーとして直接に類別するタイプを名詞類別型
・数詞や指示詞に伴って指示物を間接的にカテゴリー化するタイプを数詞類別型(P112)
と呼びます。
そしてここからが興味深いのですが、
”ある言語が名詞類別型に属すれば、その言語には必ず名詞に義務的な数の類別があり、逆にある言語が数詞類別型に属すれば、その言語は義務的な数カテゴリーが欠けている。”(P120)
というのです。
つまり、
・名詞類別型 ⇒ 名詞に義務的な数のカテゴリーあり
・数詞類別型 ⇒ 名詞に義務的なカテゴリーなし
ということです。
前者は、名詞が「男性」「女性」などに分かれ、かつ数を数えるときに「単数」と「複数」を必ず使い分ける言語です。アフロ・アジア諸語、インド・ヨーロッパ諸語に数多くみられます。
ところでここで、では英語はどうなのか?と思った方は、鋭いです。
英語は、数を数えるとき、犬「dog」の場合、
・単数 a dog
・複数 dogs
と必ず使い分けます。
ところが、英語には「男性名詞」「女性名詞」がありません。
この点に関して、英語は
”性を失った言語であり、ヨーロッパでは英語が唯一である。”と述べています(P112 脚注)。
ようは、もともとは性の区別があったということです。
次の図は、名詞類別タイプの分布です。数詞類別型が環太平洋に分布していますね。そしてこの分布は、前図の名詞の数のカテゴリーが文法化された言語分布と、重なっていないことがわかります。
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C-1 名詞の数のカテゴリー
名詞の単数・複数の区別についてです。
”英語・ドイツ語などヨーロッパのすべての言語は、名詞に少なくとも単数と複数の区別があって、いわゆる可算名詞では、有生名詞と無生名詞を問わず、単数・複数の区別が義務的である。
日本語では、「男たち」「子供ら」「野郎ども」「殿方」「旦那衆」「友だち」など、必要に応じて随意に使われているだけで、文法上義務的なカテゴリーとして義務化されているわけではない。”(P109)
英語では、男の単数は「man」、複数は「men」と明確な区別があります。日本語でも「男」と「男たち」のように区別しますが、いつも必ずというわけではありませんね。たとえば、
・私には友だちがいる
の場合、それが一人の場合もあるし、二人以上の場合もあります。これが”文法上義務的なカテゴリーとして義務化されているわけではない”という意味です。
このタイプの分布も、流音特徴と形容詞タイプの分布と類似した分布圏を作っています。すなわち、
・複式流音型(LとRの区別有)
・形容詞体言型
の分布と、名詞の数のカテゴリーが文法化された言語が、類似した分布です。

C-2.名詞の類別
”ドイツ語やロシア語などで、名詞は「男性」「女性」「中性」という3つの類に分かれる。伝統的な西洋文法で、「性gender」は、ラテン語のgeneraに由来するもので、本来は単に「類」の意味である。
日本語の名詞には性に相当する文法カテゴリーは存在しない。その代わり、日本語で物を数えるときは、人間ならば「ひとり」「ふたり」、動物ならば「一匹」「二匹」、本ならば「1冊」「2冊」というように、指示物の種類によって違った数え方をする。”
英語には男性名詞、女性名詞はありませんが、フランス語にはあります。たとえば、
太陽は「soleil」で男性名詞です。
月は「lune」で女性名詞です。
かつてフランス語を習ったとき、なんてわかりにくんだろうと思ったことを記憶しています。
これに対して日本語には、こういった区別はありませんよね。そしてその代わりに、「ひとり」「ふたり」といった数え方をします。
かつてフランス語を習ったとき、なんてわかりにくんだろうと思ったことを記憶しています。
これに対して日本語には、こういった区別はありませんよね。そしてその代わりに、「ひとり」「ふたり」といった数え方をします。
以上を言語学的にいうと、
・性のように名詞自体を文法カテゴリーとして直接に類別するタイプを名詞類別型
・数詞や指示詞に伴って指示物を間接的にカテゴリー化するタイプを数詞類別型(P112)
と呼びます。
そしてここからが興味深いのですが、
”ある言語が名詞類別型に属すれば、その言語には必ず名詞に義務的な数の類別があり、逆にある言語が数詞類別型に属すれば、その言語は義務的な数カテゴリーが欠けている。”(P120)
というのです。
つまり、
・名詞類別型 ⇒ 名詞に義務的な数のカテゴリーあり
・数詞類別型 ⇒ 名詞に義務的なカテゴリーなし
ということです。
前者は、名詞が「男性」「女性」などに分かれ、かつ数を数えるときに「単数」と「複数」を必ず使い分ける言語です。アフロ・アジア諸語、インド・ヨーロッパ諸語に数多くみられます。
ところでここで、では英語はどうなのか?と思った方は、鋭いです。
英語は、数を数えるとき、犬「dog」の場合、
・単数 a dog
・複数 dogs
と必ず使い分けます。
ところが、英語には「男性名詞」「女性名詞」がありません。
この点に関して、英語は
”性を失った言語であり、ヨーロッパでは英語が唯一である。”と述べています(P112 脚注)。
ようは、もともとは性の区別があったということです。
次の図は、名詞類別タイプの分布です。数詞類別型が環太平洋に分布していますね。そしてこの分布は、前図の名詞の数のカテゴリーが文法化された言語分布と、重なっていないことがわかります。

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