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日本人は、どこからやってきたのか?(17) ~ 古代に「海上の道」があった!!①

前回、「局部磨製石斧」が、日本列島では3~4万年前のものが出土しており、世界じゅうみても飛び抜けて古い、ということを、小田静夫氏(元東京都教育庁文化課職員)の論文などをもとにお話しました。

その小田氏ですが、「新・海上の道」という、とても面白くかつわかりやすい説を唱えてますので紹介します。以下、「黒曜石分析から解明された新・海上の道-列島最古の旧石器文化を探る④-」からの、抜粋です。


”近年の分子人類学の進展で、縄文時代人の祖先は東南アジアの「スンダランド」から北上したホモ・サピエンス(新人)たちが、琉球列島や日本本土に移住・拡散した「南方起源」(DNA分析)の人々であることが判明している(溝口優司2011『アフリカで誕生した人類が日本人になるまで』)。”


はじめに、縄文人の祖先が東南アジアの「スンダランド」から北上してやってきたことを、溝口氏の著作を引用して説明してます。ここで「スンダランド」という言葉が出てきました。「スンダランド」は、今から72000年前~16000年前に、古代に東南アジア島嶼部にあった大陸の一部です。その後の海面上昇により、海面下になり現在の地形になりました。「サフルランド」とともに、われわれの祖先がどのように移動したのかを語る際のキーワードです。

<スンダランドとサフルランド>

スンダランド・サフルランド

(Wikipediaより)

見てのとおり、現在のインドシナ半島・マレー半島からジャワ島、バリ島、ボルネオ島までは一帯の土地となっており、フィリピンまでも、ほぼつながっていました(スンダランド)。また、オーストラリア、パプアニューギニアも一つの大陸でした(サフルランド)。


”70年代に武蔵野台地の発掘調査で出土した黒曜石石器を、東京大学の鈴木正男氏に依頼して理化学的分析を行った(鈴木1971ab,1977)。その結果、太平洋上の伊豆諸島「神津島」から海を渡って本州島に多数の黒曜石が搬入されていた事実が判明し、日本の先史時代人が世界最強級の「黒潮」激流を乗り越えるほどの「海上航行」技術を持っていたことが証明された(小田1981)。その理化学的証左に裏付けられて、筆者はかつて柳田國男氏が「椰子の実」から想定した原日本人南方渡来仮説になぞって、「黒曜石」の分析結果から「新・海上の道」とも呼称できる最古の日本列島人の南方渡来説を追跡してきた経緯がある(小田2000,2002)。”


東京の武蔵野台地から出土した黒曜石のなかに、伊豆諸島の神津島産のものがあったことは、衝撃を与えました。しかも約35000年前というとても古い時代のものです。


”黒曜石は火山ガラスで割れ口は鋭く、また加工し易い美しい石材で、他の石材(チャート、砂岩、安山岩)に比べて群を抜いて優れた「石器」に適した岩石であった。特に細かい整形を必要とする両面加工の尖頭器や特に「石鏃」、また鋭い刃部が要求されるナイフ形石器、スクレイパーなどに多用された。この事実から、黒曜石は日本の先史時代(旧石器、縄文時代)を通じて、石器製作の材料として重要な役割を果たした石材でもあった(小田1984)。

黒曜石は、どの火山でも産出するものではない。つまり酸性の火山岩-流紋岩-に伴う火山ガラスで、日本では北海道(白滝、置戸、十勝)、本州中央部(長野・和田峠、霧ヶ峰、静岡・箱根<柏峠>、東京・神津島<恩馳島>)、九州地方(佐賀・腰岳、大分・姫島)に良質の産出地が存在し、京都大学の藁科哲男・東村武信の集計で全国には80ヵ所近くの原産地が登録されている(藁科・東村1988)。したがって先史時代人はこうした利用価値の高い原石を、現地に出かけて直接に、または「交易」活動を通じて入手し利用したことが知られている(小田1982,2007a)。”


ちなみに武蔵野台地の遺跡の黒曜石の産地は、神津島のほか、長野・和田峠、静岡・箱根などであり、広域的な交易システムができていたことが想定されます。驚きですね。


”日本列島中央部の太平洋上に浮かぶ伊豆諸島の神津島と本州島との間に、石器の材料としての「黒曜石」を目的にした旧石器人の渡島活動が判明した(鈴木1971a)。約1万8,000年前の最終氷期最寒冷期でも、神津島と本州島の間には海深200m、幅30km以上の「海峡」が存在し、この島の黒曜石を入手するには「渡航具」(筏舟、丸木舟)を利用した「海上航行」が必要であった。石器を主道具とする旧石器時代にあっては、黒曜石を多量に産出する神津島は「宝の島」であったに相違ない(小田1996)。”


当時の古代人が、30km以上の海を渡れるだけの舟の築造技術と、航海技術をもっていたことは疑いえないわけです。また「黒曜石」を当時の「宝」と表現しています。


神津島を最初に発見した旧石器人は、約4万年前頃に「スンダランド海岸部」を船出した「海洋航海民」であった。彼らは「黒潮海流」を利用してフィリピン諸島、台湾島を経て琉球列島に上陸(約2万6,000年前<宮古島・ピンザアブ洞人>、約3万2,000年前<沖縄本島・山下町第1洞人>、約1万8,000年前<沖縄本島・港川人>)し、その後南九州、四国、本州の太平洋沿岸地域を遊動・拡散していった。その移住過程で本州島中央部の太平洋上で黒曜石の一大産地であった伊豆諸島の「神津島」を発見し、いち早くその有効性を認め利用したのであろう(小田2005)。近年、本州中央部山岳地の長野県矢出川遺跡の細石刃文化(約1万4,000年前)の黒曜石製石器に、200km以上も離れた太平洋上の神津島産(恩馳島)が多数確認され注目されている(堤隆2011『旧石器時代』列島の考古学)。”


「神津島を発見したのはだれか?」についてです。本州の人々が発見したのだ、との説もありますが、小田氏は、スンダランドから舟でやってきた「海洋航海民」としてます。近年次々と発見される古代琉球人も、その途上にいた人々としてます。前回お話した、「南方ルート」です。


”約1万2,000年前の縄文時代になっても、神津島産黒曜石は伊豆諸島の全島嶼遺跡や本州島に運ばれ、約5,000年前の縄文中期には関東・中部地方の太平洋岸を中心に、伊勢湾や霞ケ浦沿岸、さらに日本海側の能登半島へと本州中央部約200km範囲に分布した。このような遠隔地にまで運ばれた背景には、黒曜石を専業にした集団の存在が考えられる。そうした「専業集団」の基地的遺跡が、神津島が望見できる伊豆半島東岸部の静岡県段間遺跡(縄文中期)に確認され、ここからは約500kg以上の黒曜石石核・剥片と約19kgの大型原石が出土している(金山)。

野川遺跡の理化学的な黒曜石分析で、武蔵野台地の約2万年前の「旧石器時代」に、太平洋上の伊豆諸島・神津島産黒曜石を利用していたことが判明した(鈴木1971ab)。

ちなみに世界最古の海洋航行は、地中海のエーゲ海周辺の約1万2,000~1万年前の「中石器時代」の交易活動が定説になっていたからであった(ハドソン1988)。”


ここで面白い仮説を立ててます。「黒曜石を生業とした専門的集団」の存在です。確かに、日本各地に黒曜石を運ぶとなると、片手間ではできませんね。全国規模のネットワークが存在したということです。また世界的にみると、最古の「海洋航行」による交易活動が12000年前とされているのに比べて、けた違いに古いことも驚きです。


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Re: No title

匿名希望さんへ
後漢書倭伝の「倭国の極南界なり」は、原文は「倭国之極南界也。光武賜以印綬」です。通常はこれを「倭国の極南界なり。光武は賜うに印綬を以てす。」と読み下すのですが、それでは意味が通じないので、学者さんたちは困っているわけです。私はこれを「倭国の南界を極むるや、光武賜うるに印綬を以てす。」として、「倭国が南の果てを極めたから、光武帝が金印を賜った」と解釈してます(古田武彦氏の説)。詳しくは、後漢書倭伝を読む(3)を参照ください。
プロフィール

青松光晴

Author:青松光晴
古代史研究家。理工系出身のビジネスマンとして一般企業に勤務する傍ら、古代史に関する情報を多方面から収集、独自の科学的アプローチにて、古代史の謎を解明中。特技は中国拳法。その他、現在はまっている趣味は、ハーブを栽培して料理をつくることです。
著書です。



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