北部九州の宗像神と関連神を祭る神社データは語る(2)~他の神々との棲み分け
前回は、九州北部における宗像神の分布がきわめて偏っている、という話でした。
ではなぜそれほどまでに偏っているのか、矢田氏は推測します。
それは「他の神との棲み分け」があったのではないか?、と。
図6は、北部九州4県で祭られる代表的な祭神と、それらを全国平均に対する集中度で示したものです。
横軸が北部九州で祭られる代表的祭神で、全部で20挙げてます。
縦軸は全国に対する集中度で、1が平均、上にいくほどその地域に集中している、すなわち信仰が浸透していることを示し、下にいくほど集中していない、すなわち別神を信仰している地域であることを示してます。
左の3つが宗像神です。1番左が全宗像神、2番目が三女神(八王子除く)、3番目がイチキシマ単神です。
両者とも、宗像郡の集中度(緑色)が圧倒的であり、福岡県(赤色)、北部九州(青色)とも、全国平均を上回っています。
それに対して、イチキシマ単神が全国平均とほぼ同じであり、これはもともとあったイチキシマ信仰がのちに宗像を中心とした宗像神信仰に置き換えられていった、という推測の正しさを後押ししてます。
左から4番目から6番目の、志賀神・住吉神・玉依姫の三神は、北部九州で宗像神と並んで海神として祭られることの多い神々です。ちなみに玉依姫とは、神武天皇の母親であり、京都市下鴨神社の主祭り神として全国の加茂神社に祭られてます。
三神とも、北部九州に多く祭られてますが、特に福岡県で集中度が高く、その中でも玉依姫の集中度が高いですね。
続く八幡神(応神天皇)・神功皇后・武内宿弥の三神は、八幡系神社で主に祭られる神々で、主神の応神天皇は全国平均と同程度の分布であるのに対し、神功皇后と武内宿弥は北部九州、特に福岡県に強い分布を示してます。
次のオカミ神・ミズハノメの二神は、記紀神話で宗像神より先に登場する由緒の古い水神です。
”剣の柄に溜つた血から闇御津羽神(くらみつはのかみ)とともに闇龗神(クラオカミノカミ)が生まれたとされる。龗(おかみ)は龍の古語であり、龍は水や雨を司る神として信仰されていた。
ミズハノメは、『古事記』の神産みの段において、カグツチを生んで陰部を火傷し苦しんでいたイザナミがした尿から、和久産巣日神(ワクムスビ)とともに生まれたとしている。『日本書紀』の第二の一書では、イザナミが死ぬ間際に埴山媛神(ハニヤマヒメ)と罔象女(ミズハノメ)神を生んだとしている。淤加美神とともに、日本における代表的な水の神(水神)である。 ”(Wikipediaより)。
オカミ神とミズハノメは、北部九州に集中して分布し、特にオカミ神は宗像郡を含む福岡県に強く集中してます。オカミ神は重要な神で、この後出てきます。
続くオオナムチ+大国主命、スクナビコナ、事代主の三神は一般に出雲系として知られる神々です。出雲の主神オオナムチ(「書紀」に大己貴神(オオナムチノカミ)、大国主命(オオクニヌシノミコト)と同神とされる)の集中度は高くありませんが、他の二神(スクナビコナ、事代主)は福岡県に多く、特にスクナビコナ(「書紀」に少彦名命(スクナビコナノミコト))が宗像郡に多いのが目立ちます。
スサノオ、アマテラス、菅原神、稲荷神、オオヤマツミは、全国的に広く知られている古代後半以降の流行神です。
スサノオは、記紀神話では出雲の重要神ですが、「出雲国風土記」では重要神の扱いはされてません。現在は後年盛んになった熊野信仰の神として祭られるケースが多いのですが、宗像郡に少ないのはこのためであろう、と推測してます。
アマテラスは、北部九州に少なく、特に宗像郡には殆ど祭られていません。これは、”天皇家の祖神アマテラスは、古代に一般に祭られることが少なかったためと思われる。神祇世界の成立が古かった北部九州では、中世以降の伊勢信仰の影響が入りにくかったのであろう。”と推測してます。
菅原神はその由緒から北部九州に多いのですが、その中で宗像郡は平均的です。
稲荷神(「書紀」に倉稲魂(うかのみたま))を祭る社数は、全国の普及度よりかなり低いです。。
オオヤマツミ(「書紀」に大山祇)は、宗像郡に少ないことが特徴的です。
以上いずれも宗像郡に少ない理由として、
”これらの特徴は、宗像郡の神祇世界が殆ど古代のうちに成立していたために、中世以降の流行神が入る余地がなかったことを示すと思われる。”
と推測してます。
ただしこれら全てが中世以降の流行神であったためなのかは、なんとも言えません。信仰された地域が別の地域であった可能性もあるでしょう(オオヤマツミなど)。
最後の二神、「書紀」に出る土の神、埴安(ハニヤス)神(埴安姫が殆どであるが、男神の埴安彦もある)と埴山神(北部九州で少なく、すべて埴山姫)は一般に同じ神とされ、実際相互に殆ど区別なく祭られていることが多いので、両神を合計して扱ってます。
”カグツチ(火の神)を産んで死ぬ間際のイザナミの大便からハニヤス神・ハニヤスヒメ神の二神が化生したとする。『日本書紀』では埴安神と表記される。他に、神社の祭神で埴山彦神・埴山姫神の二神を祀るとするものもある。
なお「ハニ」(埴)とは土のことである。”(Wikipediaより)
オカミ神・ミズハノメ同様、記紀神話で宗像神より先に登場する由緒の古い神です(上図参照)。この神は、北部九州、中でも福岡県の集中度が高いです。宗像郡ではそれほど集中度が高くないので、それ以外の地域に集中していることが推定されますね。
さて以上みてきましたが、各神同士の関係性は、どのようになっているでしょうか。
統計学上の相関係数という関数を使って解析します。詳細は割愛して、結果だけ記します。
三女神と相関が大きい、すなわち三女神を信仰する社数が多い地域で、同じように社数が多くなる信仰がオオナムチ+大国主、スクナビコで、ここから出雲と宗像の強い関わりが推定できます。
逆に相関がマイナスの関係性にある、すなわち三女神を信仰する社数が多い地域で、社数が少なくなる信仰が神武天皇の母親である玉依女(タマヨリヒメ)です。
もうひとつ三女神とマイナスの関係性にあるのが、埴安神です。
この二神は共同で他神が入りにくい独自の信仰圏をもっていた、ことがみてとれます。
では具体的にどういうことなのか、次回みていきます。
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ではなぜそれほどまでに偏っているのか、矢田氏は推測します。
それは「他の神との棲み分け」があったのではないか?、と。
図6は、北部九州4県で祭られる代表的な祭神と、それらを全国平均に対する集中度で示したものです。
横軸が北部九州で祭られる代表的祭神で、全部で20挙げてます。
縦軸は全国に対する集中度で、1が平均、上にいくほどその地域に集中している、すなわち信仰が浸透していることを示し、下にいくほど集中していない、すなわち別神を信仰している地域であることを示してます。

左の3つが宗像神です。1番左が全宗像神、2番目が三女神(八王子除く)、3番目がイチキシマ単神です。
両者とも、宗像郡の集中度(緑色)が圧倒的であり、福岡県(赤色)、北部九州(青色)とも、全国平均を上回っています。
それに対して、イチキシマ単神が全国平均とほぼ同じであり、これはもともとあったイチキシマ信仰がのちに宗像を中心とした宗像神信仰に置き換えられていった、という推測の正しさを後押ししてます。
左から4番目から6番目の、志賀神・住吉神・玉依姫の三神は、北部九州で宗像神と並んで海神として祭られることの多い神々です。ちなみに玉依姫とは、神武天皇の母親であり、京都市下鴨神社の主祭り神として全国の加茂神社に祭られてます。
三神とも、北部九州に多く祭られてますが、特に福岡県で集中度が高く、その中でも玉依姫の集中度が高いですね。
続く八幡神(応神天皇)・神功皇后・武内宿弥の三神は、八幡系神社で主に祭られる神々で、主神の応神天皇は全国平均と同程度の分布であるのに対し、神功皇后と武内宿弥は北部九州、特に福岡県に強い分布を示してます。
次のオカミ神・ミズハノメの二神は、記紀神話で宗像神より先に登場する由緒の古い水神です。
”剣の柄に溜つた血から闇御津羽神(くらみつはのかみ)とともに闇龗神(クラオカミノカミ)が生まれたとされる。龗(おかみ)は龍の古語であり、龍は水や雨を司る神として信仰されていた。
ミズハノメは、『古事記』の神産みの段において、カグツチを生んで陰部を火傷し苦しんでいたイザナミがした尿から、和久産巣日神(ワクムスビ)とともに生まれたとしている。『日本書紀』の第二の一書では、イザナミが死ぬ間際に埴山媛神(ハニヤマヒメ)と罔象女(ミズハノメ)神を生んだとしている。淤加美神とともに、日本における代表的な水の神(水神)である。 ”(Wikipediaより)。
オカミ神とミズハノメは、北部九州に集中して分布し、特にオカミ神は宗像郡を含む福岡県に強く集中してます。オカミ神は重要な神で、この後出てきます。


続くオオナムチ+大国主命、スクナビコナ、事代主の三神は一般に出雲系として知られる神々です。出雲の主神オオナムチ(「書紀」に大己貴神(オオナムチノカミ)、大国主命(オオクニヌシノミコト)と同神とされる)の集中度は高くありませんが、他の二神(スクナビコナ、事代主)は福岡県に多く、特にスクナビコナ(「書紀」に少彦名命(スクナビコナノミコト))が宗像郡に多いのが目立ちます。
スサノオ、アマテラス、菅原神、稲荷神、オオヤマツミは、全国的に広く知られている古代後半以降の流行神です。
スサノオは、記紀神話では出雲の重要神ですが、「出雲国風土記」では重要神の扱いはされてません。現在は後年盛んになった熊野信仰の神として祭られるケースが多いのですが、宗像郡に少ないのはこのためであろう、と推測してます。
アマテラスは、北部九州に少なく、特に宗像郡には殆ど祭られていません。これは、”天皇家の祖神アマテラスは、古代に一般に祭られることが少なかったためと思われる。神祇世界の成立が古かった北部九州では、中世以降の伊勢信仰の影響が入りにくかったのであろう。”と推測してます。
菅原神はその由緒から北部九州に多いのですが、その中で宗像郡は平均的です。
稲荷神(「書紀」に倉稲魂(うかのみたま))を祭る社数は、全国の普及度よりかなり低いです。。
オオヤマツミ(「書紀」に大山祇)は、宗像郡に少ないことが特徴的です。
以上いずれも宗像郡に少ない理由として、
”これらの特徴は、宗像郡の神祇世界が殆ど古代のうちに成立していたために、中世以降の流行神が入る余地がなかったことを示すと思われる。”
と推測してます。
ただしこれら全てが中世以降の流行神であったためなのかは、なんとも言えません。信仰された地域が別の地域であった可能性もあるでしょう(オオヤマツミなど)。
最後の二神、「書紀」に出る土の神、埴安(ハニヤス)神(埴安姫が殆どであるが、男神の埴安彦もある)と埴山神(北部九州で少なく、すべて埴山姫)は一般に同じ神とされ、実際相互に殆ど区別なく祭られていることが多いので、両神を合計して扱ってます。
”カグツチ(火の神)を産んで死ぬ間際のイザナミの大便からハニヤス神・ハニヤスヒメ神の二神が化生したとする。『日本書紀』では埴安神と表記される。他に、神社の祭神で埴山彦神・埴山姫神の二神を祀るとするものもある。
なお「ハニ」(埴)とは土のことである。”(Wikipediaより)
オカミ神・ミズハノメ同様、記紀神話で宗像神より先に登場する由緒の古い神です(上図参照)。この神は、北部九州、中でも福岡県の集中度が高いです。宗像郡ではそれほど集中度が高くないので、それ以外の地域に集中していることが推定されますね。
さて以上みてきましたが、各神同士の関係性は、どのようになっているでしょうか。
統計学上の相関係数という関数を使って解析します。詳細は割愛して、結果だけ記します。
三女神と相関が大きい、すなわち三女神を信仰する社数が多い地域で、同じように社数が多くなる信仰がオオナムチ+大国主、スクナビコで、ここから出雲と宗像の強い関わりが推定できます。
逆に相関がマイナスの関係性にある、すなわち三女神を信仰する社数が多い地域で、社数が少なくなる信仰が神武天皇の母親である玉依女(タマヨリヒメ)です。
もうひとつ三女神とマイナスの関係性にあるのが、埴安神です。
この二神は共同で他神が入りにくい独自の信仰圏をもっていた、ことがみてとれます。
では具体的にどういうことなのか、次回みていきます。
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