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宗像三女神と沖ノ島祭祀の始まり(2)~誓約(うけい)神話の奇妙さとは?

 論文では、冒頭、古事記・日本書紀の「誓約(うけい)神話」について、分析してます。その前に誓約神話の概要をつかんでおきましょう。

”天地開闢の後に七代の神が交代し、その最後にイザナギ、イザナミが生まれた。二神は高天原(天)から葦原中津国(地上世界)に降り、結婚して結ばれ、その子として、大八島国を産み、ついで、山の神、海の神など様々な神を産んだ。こうした国産みの途中、イザナミは火の神を産んだため、火傷を負い死んでしまい、出雲と伯耆の堺の比婆山(現島根県安来市)に葬られた。イザナギはイザナミを恋しがり、黄泉の国(死者の世界)を訪れ連れ戻そうとするが、連れ戻せず、国産みは未完成のまま終わる。

イザナギは黄泉の国の穢れを落とすため、禊を行い、左目を洗ったときに天照大御神(アマテラスオオミカミ)、右目を洗ったときに月読命(ツクヨミノミコト)、鼻を洗ったときに須佐之男命(スサノオノミコト)を産む。その後、最初に生んだ淡路島の幽宮で過ごした。これら三神は三貴子と呼ばれ、神々の中で重要な位置を占めるのだが、月読命に関してはその誕生後の記述が一切ない。スサノオノミコトは乱暴者なため、姉のアマテラスに反逆を疑われる。そこで、アマテラスとスサノオノミコトは心の潔白を調べる誓約(うけい)を行い五男三女神が誕生する。その結果、スサノオノミコトは潔白を証明するが、調子に乗って暴れてしまい、そのためアマテラスは天岩屋戸に閉じこもるが、集まった諸神の知恵で外に出すことに成功する。” (古事記概要、Wikipediaより)

誓約の結果生まれた五男三女神の三女神が、宗像三女神(イチキシマ・タゴリ・タギツ)です。この誓約神話について、矢田氏は”大変奇妙な物語である。”と述べてます。

では誓約の場面の詳細をみてみましょう。日本書紀第六段本文の要約です。

”アマテラスから、
「おまえの赤い心を何で証明するのか。」
と問われたスサノオは、
「どうか姉上と共に誓約しましょう。誓約の中に、必ず子を生むことをいれましょう。もし私の生んだのが女だったら、汚い心があると思ってください。もし男だったら清い心であるとしてください。
と答えた。
アマテラスは、スサノオの十握劒(とつかのつるぎ)を借りて三つに折って、天真名井(あめのまない)で振りすしいで、噛んで吹き出した。その息の霧から生まれた神が以下の宗像三女神である。
田心姫(たこりひめ)
湍津姫(たぎつひめ)
市杵嶋姫(いちきしまひめ)

スサノオは、アマテラスの頭髪と腕に巻いていた八坂瓊之五百箇御統(やさかにのいおつみすまる)を乞われて、天眞名井で振りすすぎ、噛んで吹き出した。その息の霧から生まれた神が以下の五柱の男神である。
正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(まさかあかつかちはやひあまのおしほみみのみこと)
天穂日命(あめのほひのみこと)
天津彦根命(あまつひこねのみこと)
活津彦根命(いくつひこねのみこと)
熊野櫲樟日命(くまのくすひのみこと)

アマテラスは、
「その元を尋ねれば、八坂瓊之五百箇御統は私の物である。だからこの五柱の男神は全部私の子である。
そこで引き取って養われた。またいわれるのに、
「その十握劒は、スサノオのものである。だからこの三柱の神はことごとくお前の子である。
といって、スサノオに授けられた。”(「日本書紀」(宇治谷孟訳)参照)

誓約系図 

論文では、以下のように述べてます。
”(「日本書紀」神代記の)第六段は、 主人公の神の一柱天照大神あまてらすおおみかみ(以下アマテラス)が皇室の祖神で あるばかりではなく、三女神と共に生まれる五男神のうち一柱正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(まさかあかつかちはやひあまのおしほみみのみこと)(以下オシホミミ)が天皇家の直接の祖先となっている点で、いわゆる「記紀神話」の中でもきわめて重要な意味を持つ。
この段は、その悪行により天上界を追放されることになった素戔鳴尊(すさのおのみこと)(以下スサノオ)が、姉のアマテラスに会いに行くことで始まる。そしてスサノオの赤心を疑うアマテラスに対し、
①スサノオによる「ウケイ」の提案と清心の条件提示
→②両者の「物根(ものざね)」の交換
→③アマテラスによる三女神の化成とスサノオによる五男神の化生
→④三女神と五男神の交換という複雑な過程をたどる。


【解説】
アマテラス三貴子のなかの一神にすぎません。にもかかわらず皇室の祖先になっているのは、誓約の結果生まれた五男神三女神のなかの一神であるオシホミミが、天皇家の直接の祖先だからでしょう。
また誓約においてさまざまな提案と条件提示を行い、勝ち負けを決めていきますが、その過程もたいへん複雑です。
たとえばスサノオは、男の子を生んでますが、なぜか元となった八坂瓊之五百箇御統(やさかにのいおつみすまる、勾玉のこと)がアマテラスの物だったからという理由で、男の子はアマテラスの子とされました。
逆にアマテラスは女の子を生んでますが、元となった十握劒(とつかのつるぎ)がスサノオの物だったのだからという理由で、女の子はスサノオの子とされました。
勝敗については書かれてませんが、はじめの条件通り、スサノオが男の子を生んだのでスサノオの勝ちですが、ずい分とわかりにくいですね。
なぜここまで複雑にする必要があるのか、よくわかりません。

こうしたことから、矢田氏が”たいへん奇妙な物語”と表現しているものと推察されます。

”神代紀第六段には本文の他に三つの一書が併記されていて、それぞれ本文とは多少の異同がある。その違いを、表1に示す。神代紀にはそのほかに第七段の第三の一書に「ウケイ」が記述されている。”

【解説】
とても興味深いことですが、日本書紀は本文に加えて一書という表現で、本文とは若干異なるストーリーをいくつも記載してます。一書とはおそらく各地方や家に伝わる伝承を指していると考えられます。それらを整理したのが、下の表1です。
 
 誓約神話諸伝2 
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プロフィール

青松光晴

Author:青松光晴
古代史研究家。理工系出身のビジネスマンとして一般企業に勤務する傍ら、古代史に関する情報を多方面から収集、独自の科学的アプローチにて、古代史の謎を解明中。特技は中国拳法。その他、現在はまっている趣味は、ハーブを栽培して料理をつくることです。
著書です。



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