日本神話の源流(5)~ 海幸彦・山幸彦とバナナ型神話
前回までで、日本神話の源流について、吉田敦彦氏や岡正雄氏の説をみてきました。そして驚くべきことに、それらが近代遺伝子学における日本人の祖先の推定移動ルートと大枠で同じ、ということでした。
今回から日本神話の内容について、世界各地の神話と比較することにより、その源流を探っていきます。
まずは、南洋の神話との比較です。
日本神話が、ポリネシア・ミクロネシア・インドネシアなど、南太平洋の島々の原住民に伝わる神話と、きわめてよく似た話を多く含むことが、知られています。
なかでも、「海幸彦・山幸彦」などで代表される「日向神話」と、イザナギ・イザナミを主人公とする話が、よく似ているとされます。
両者とも、海を舞台にしていることから、黒潮の流れに沿って南洋から島伝いに伝播した、といわれてきました。
では「海幸彦・山幸彦」の話から、みてみましょう。
あらすじは
”山の猟が得意な山幸彦(弟)と、海の漁が得意な海幸彦(兄)の話である。兄弟はある日猟具を交換し、山幸彦は魚釣りに出掛けたが、兄に借りた釣針を失くしてしまう。困り果てていた所、塩椎神(しおつちのかみ)に教えられ、小舟に乗り「綿津見神宮(わたつみのかみのみや)」(又は綿津見の宮、海神の宮殿の意味)に赴く。
海神(大綿津見神)に歓迎され、娘・豊玉姫(豊玉毘売命・とよたまひめ)と結婚し、綿津見神宮で楽しく暮らすうち既に3年もの月日が経っていた。山幸彦は地上へ帰らねばならず、豊玉姫に失くした釣針と、霊力のある玉「潮盈珠(しおみつたま)」と「潮乾珠(しおふるたま)」を貰い、その玉を使って海幸彦をこらしめ、忠誠を誓わせたという。この海幸彦は交易していた隼人族の祖と考えられる。その後、妻の豊玉姫は子供を産み、それが鵜草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)であり、山幸彦は神武天皇の祖父にあたる。 ”(Wikiediaより)
この話が、ミクロネシアのパラオ島、インドネシアのケイ諸島とスラウェシ島のミナハッサの話と、似ているというものです。同書のなかでも、
”主人公が魚釣りの最中に、魚に取られてしまった釣り針の返却をきびしく要求されて、しかたなく海底に赴き、探索の末に首尾よく魚の喉のに突き刺さっていた針を取り戻して陸に帰り、彼に針を返せと難題を言った人物に仕返しをする、という点で、よく似ている。
他にも、いくつかの特異な細目でよく似ており、単なる偶然とは考えられず、「海幸彦・山幸彦」神話との間に、親縁関係があるのは確実であろう。”と述べてます(同書P42,43)。
<山幸彦>
(音川安親編 万物雛形画譜、ホオリ(ヒコホホデミ)、Wikipediaより)
この話の直前に、ニニギノミコト(邇邇芸命)とコノハナサクヤヒメ(木花之佐久夜毘売)の婚姻の物語があります。
あらすじは、
”コノハナサクヤヒメは、日向に降臨した天照大御神の孫・ニニギノミコトと、笠沙の岬で出逢い求婚される。父の大山津見神はそれを喜んで、姉のイワナガヒメ(石長比売)と共に差し出したが、ニニギノミコトは醜いイワナガヒメを送り返し、美しいコノハナサクヤヒメとだけ結婚した。大山津見神はこれを怒り「私が娘二人を一緒に差し上げたのはイワナガヒメを妻にすれば天津神の御子(ニニギノミコト)の命は岩のように永遠のものとなり、コノハナサクヒメを妻にすれば木の花が咲くように繁栄するだろうと誓約を立てたからである。コノハナサクヤヒメだけと結婚すれば、天津神の御子の命は木の花のようにはかなくなるだろう」と告げた。それでその子孫の天皇の寿命も神々ほどは長くないのである。
コノハナサクヤヒメは一夜で身篭るが、ニニギノミコトは国津神の子ではないかと疑った。疑いを晴らすため、誓約をして産屋に入り、「天津神であるニニギノミコトの本当の子なら何があっても無事に産めるはず」と、産屋に火を放ってその中で火照命(もしくは火明命、海幸彦)・火須勢理命・火遠理命(山幸彦)の三柱の子を産んだ。火遠理命の孫が初代天皇の神武天皇である。”(Wikipediaより)
この物語では、神であるはずの天皇の生命が、人間なみに短くなった理由を説明してます。南洋では、これときわめてよく似た話が、人間の生命の短い理由を説明するために用いられてます。「バナナ型」として知られてます。インドネシアからニューギニアにかけて分布しているといわれてますが、中でもスラウェジのポソ地方のアルフール族から採集された話が、特に類似している、と述べてます。
あらすじは
”大昔には天地のあいだは、今よりもずっと近く、人間は創造神が縄に結んで天から下ろしてくれる贈り物によって生活していた。ある日のこと、創造神が石を下ろしたところが、人類の始祖の夫婦はそれを受け取ることを拒否し、何かほかのものが欲しいと要求した。神がそこで石を引き上げ、今度はバナナを下すと、夫婦は喜んでそれを食べた。すると、天からつぎのように言う声が聞こえてきた。
「石を捨ててバナナを選んだのだから、お前たちの生命は、子供をもつとすぐに親の木が死んでしまうバナナのようにはかないものとなるだろう。もし石を受け取っていれば、お前たちの生命は石のように永久に続いたであろうに。」(同書P45)
比較すると、人間にゆだねられた最初の選択が、
・日本神話・・・ 石と木の花
・スラウェジ・・・ 石とバナナ
という点で異なってます。
”しかしながらこの点を除けば、石を捨て植物を選び取ったため短い寿命を与えられたという基本的構造において、二つの話は正確に一致している。”と述べてます。
なお、バナナが日本では木の花に変わったのは、気候風土を反映したもの、としてます。
<ニニギノミコト>
(音川安親編 万物雛形画譜、ニニギノミコト、Wikipediaより)
このほかにも、
”コノハナサクヤヒメは一夜で身篭るが、ニニギノミコトは国津神の子ではないかと疑った。疑いを晴らすため、誓約をして産屋に入り、「天津神であるニニギノミコトの本当の子なら何があっても無事に産めるはず」と、産屋に火を放ってその中で火照命(もしくは火明命)・火須勢理命・火遠理命の三柱の子を産んだ。”
というところは、
”インドネシアからインドシナ半島にみられる、産婦の近くで火を燃やす「産婦焼き」の習慣を思わせる。また日本書記の引く第三の一書の伝承によれば、この火中における出産の際に、児のへその緒を切るために竹刀が用いられたとされているのは、インドネシアの各地に例が見られる風習と一致する。”
このように、ニニギノミコト以下皇室三代の祖先たちにまつわる話は、多くの点で南洋、特にインドネシアの神話や風習と、何らかの、親縁関係を考えざるをえないほどの類似性がある。”と述べてます。
”このことを、最近まで多くの研究者たちは、南九州地方の原住民であった隼人(はやと)がインドネシア系の種族であったとみなし、日向神話を、全体的にこの隼人の伝承を取り入れたものと考えることによって説明してきた。”
と述べてます。
さて皆さんは、どのように思ったでしょうか?。
ここまで似ているのだから、やはり南洋の島々から伝わったのだろう、と思われた方が多いのではないでしょうか?。
ところが最後に、"最近まで多くの研究者たちもそのように考えてきた"、と述べてます。この思わせぶりな書き方から察するように、吉田氏は必ずしもそうとは考えていないようです。
↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!
今回から日本神話の内容について、世界各地の神話と比較することにより、その源流を探っていきます。
まずは、南洋の神話との比較です。
日本神話が、ポリネシア・ミクロネシア・インドネシアなど、南太平洋の島々の原住民に伝わる神話と、きわめてよく似た話を多く含むことが、知られています。
なかでも、「海幸彦・山幸彦」などで代表される「日向神話」と、イザナギ・イザナミを主人公とする話が、よく似ているとされます。
両者とも、海を舞台にしていることから、黒潮の流れに沿って南洋から島伝いに伝播した、といわれてきました。
では「海幸彦・山幸彦」の話から、みてみましょう。
あらすじは
”山の猟が得意な山幸彦(弟)と、海の漁が得意な海幸彦(兄)の話である。兄弟はある日猟具を交換し、山幸彦は魚釣りに出掛けたが、兄に借りた釣針を失くしてしまう。困り果てていた所、塩椎神(しおつちのかみ)に教えられ、小舟に乗り「綿津見神宮(わたつみのかみのみや)」(又は綿津見の宮、海神の宮殿の意味)に赴く。
海神(大綿津見神)に歓迎され、娘・豊玉姫(豊玉毘売命・とよたまひめ)と結婚し、綿津見神宮で楽しく暮らすうち既に3年もの月日が経っていた。山幸彦は地上へ帰らねばならず、豊玉姫に失くした釣針と、霊力のある玉「潮盈珠(しおみつたま)」と「潮乾珠(しおふるたま)」を貰い、その玉を使って海幸彦をこらしめ、忠誠を誓わせたという。この海幸彦は交易していた隼人族の祖と考えられる。その後、妻の豊玉姫は子供を産み、それが鵜草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)であり、山幸彦は神武天皇の祖父にあたる。 ”(Wikiediaより)
この話が、ミクロネシアのパラオ島、インドネシアのケイ諸島とスラウェシ島のミナハッサの話と、似ているというものです。同書のなかでも、
”主人公が魚釣りの最中に、魚に取られてしまった釣り針の返却をきびしく要求されて、しかたなく海底に赴き、探索の末に首尾よく魚の喉のに突き刺さっていた針を取り戻して陸に帰り、彼に針を返せと難題を言った人物に仕返しをする、という点で、よく似ている。
他にも、いくつかの特異な細目でよく似ており、単なる偶然とは考えられず、「海幸彦・山幸彦」神話との間に、親縁関係があるのは確実であろう。”と述べてます(同書P42,43)。
<山幸彦>

(音川安親編 万物雛形画譜、ホオリ(ヒコホホデミ)、Wikipediaより)
この話の直前に、ニニギノミコト(邇邇芸命)とコノハナサクヤヒメ(木花之佐久夜毘売)の婚姻の物語があります。
あらすじは、
”コノハナサクヤヒメは、日向に降臨した天照大御神の孫・ニニギノミコトと、笠沙の岬で出逢い求婚される。父の大山津見神はそれを喜んで、姉のイワナガヒメ(石長比売)と共に差し出したが、ニニギノミコトは醜いイワナガヒメを送り返し、美しいコノハナサクヤヒメとだけ結婚した。大山津見神はこれを怒り「私が娘二人を一緒に差し上げたのはイワナガヒメを妻にすれば天津神の御子(ニニギノミコト)の命は岩のように永遠のものとなり、コノハナサクヒメを妻にすれば木の花が咲くように繁栄するだろうと誓約を立てたからである。コノハナサクヤヒメだけと結婚すれば、天津神の御子の命は木の花のようにはかなくなるだろう」と告げた。それでその子孫の天皇の寿命も神々ほどは長くないのである。
コノハナサクヤヒメは一夜で身篭るが、ニニギノミコトは国津神の子ではないかと疑った。疑いを晴らすため、誓約をして産屋に入り、「天津神であるニニギノミコトの本当の子なら何があっても無事に産めるはず」と、産屋に火を放ってその中で火照命(もしくは火明命、海幸彦)・火須勢理命・火遠理命(山幸彦)の三柱の子を産んだ。火遠理命の孫が初代天皇の神武天皇である。”(Wikipediaより)
この物語では、神であるはずの天皇の生命が、人間なみに短くなった理由を説明してます。南洋では、これときわめてよく似た話が、人間の生命の短い理由を説明するために用いられてます。「バナナ型」として知られてます。インドネシアからニューギニアにかけて分布しているといわれてますが、中でもスラウェジのポソ地方のアルフール族から採集された話が、特に類似している、と述べてます。
あらすじは
”大昔には天地のあいだは、今よりもずっと近く、人間は創造神が縄に結んで天から下ろしてくれる贈り物によって生活していた。ある日のこと、創造神が石を下ろしたところが、人類の始祖の夫婦はそれを受け取ることを拒否し、何かほかのものが欲しいと要求した。神がそこで石を引き上げ、今度はバナナを下すと、夫婦は喜んでそれを食べた。すると、天からつぎのように言う声が聞こえてきた。
「石を捨ててバナナを選んだのだから、お前たちの生命は、子供をもつとすぐに親の木が死んでしまうバナナのようにはかないものとなるだろう。もし石を受け取っていれば、お前たちの生命は石のように永久に続いたであろうに。」(同書P45)
比較すると、人間にゆだねられた最初の選択が、
・日本神話・・・ 石と木の花
・スラウェジ・・・ 石とバナナ
という点で異なってます。
”しかしながらこの点を除けば、石を捨て植物を選び取ったため短い寿命を与えられたという基本的構造において、二つの話は正確に一致している。”と述べてます。
なお、バナナが日本では木の花に変わったのは、気候風土を反映したもの、としてます。
<ニニギノミコト>

(音川安親編 万物雛形画譜、ニニギノミコト、Wikipediaより)
このほかにも、
”コノハナサクヤヒメは一夜で身篭るが、ニニギノミコトは国津神の子ではないかと疑った。疑いを晴らすため、誓約をして産屋に入り、「天津神であるニニギノミコトの本当の子なら何があっても無事に産めるはず」と、産屋に火を放ってその中で火照命(もしくは火明命)・火須勢理命・火遠理命の三柱の子を産んだ。”
というところは、
”インドネシアからインドシナ半島にみられる、産婦の近くで火を燃やす「産婦焼き」の習慣を思わせる。また日本書記の引く第三の一書の伝承によれば、この火中における出産の際に、児のへその緒を切るために竹刀が用いられたとされているのは、インドネシアの各地に例が見られる風習と一致する。”
このように、ニニギノミコト以下皇室三代の祖先たちにまつわる話は、多くの点で南洋、特にインドネシアの神話や風習と、何らかの、親縁関係を考えざるをえないほどの類似性がある。”と述べてます。
”このことを、最近まで多くの研究者たちは、南九州地方の原住民であった隼人(はやと)がインドネシア系の種族であったとみなし、日向神話を、全体的にこの隼人の伝承を取り入れたものと考えることによって説明してきた。”
と述べてます。
さて皆さんは、どのように思ったでしょうか?。
ここまで似ているのだから、やはり南洋の島々から伝わったのだろう、と思われた方が多いのではないでしょうか?。
ところが最後に、"最近まで多くの研究者たちもそのように考えてきた"、と述べてます。この思わせぶりな書き方から察するように、吉田氏は必ずしもそうとは考えていないようです。
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