日本神話の源流(16)~ギリシア神話との比較
ここまで日本神話の源流について、南洋(メラネシア他)、アジア大陸東南部(インドシナ、インドアッサム地方、中国江南地方)をみてきました。
通説では、中国江南地方が発祥であり、そこからインドシナ、メラネシアへと伝わる一方、日本列島にも伝わった、との説が有力視されているとしてます。
その一方で、インドシナ南部にかつて存在したスンダランドが発祥であり、そこから北上して中国江南地方を経て、あるいは直接黒潮に乗り海路で日本列島につたわった可能性について、お話しました。
ところが話はこれで終わりではこれでありません。
皆さんのなかには、日本神話のなかに、朝鮮半島や中央アジアなどいわゆる北方系の要素が多く含まれている、という話を聞いたことがある方も、多いと思います。
さらに、遠く西方に離れたギリシアやスキュタイ、インド、イラン、ゲルマン、ケルトなど、インドヨーロッパ語族とよばれる諸民族との関連も指摘されています。
日本の神話が、それら遠く離れた地域の神話と似ているというのは、単なる偶然でしょうか。それとも何らかの関係があるのでしょうか?。
ここからはそれら諸神話との関係をみていきましょう。
まず、イザナギの黄泉(よみ)の国訪問神話と、ギリシアの有名なオルペウス伝説との類似についてです。
イザナミの黄泉の国訪問の話と、ニュージーランドのマオリ族のあいだに伝わる神話が類似していることは、前にお話ししました。
詳しくは
「日本神話の源流(6)~国生みと神生み」
を参照ください。
ところがギリシアのオルペウス伝説にも同じような話があり、興味深いことに、ニュージーランドのマオリ族の神話よりもさらに著しい類似を示すというのです(同書P136)。
ではオルペウスについての概要です。
”(オルペウスは)ギリシア神話に登場する吟遊詩人であり、古代に隆盛した密儀宗教であるオルペウス教の始祖とされる。オルペウスの妻エウリュディケーが毒蛇にかまれて死んだとき、オルペウスは妻を取り戻すために冥府に入った。彼の弾く竪琴の哀切な音色の前に、ステュクスの渡し守カローンも、冥界の番犬ケルベロスもおとなしくなり、冥界の人々は魅了され、みな涙を流して聴き入った。
ついにオルペウスは冥界の王ハーデースとその妃ペルセポネーの王座の前に立ち、竪琴を奏でてエウリュディケーの返還を求めた。オルペウスの悲しい琴の音に涙を流すペルセポネーに説得され、ハーデースは、「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件を付け、エウリュディケーをオルペウスの後ろに従わせて送った。
目の前に光が見え、冥界からあと少しで抜け出すというところで、不安に駆られたオルペウスは後ろを振り向き、妻の姿を見たが、それが最後の別れとなった。” (Wikipediaより)
この話について、
”死んだ愛妻を連れ戻すため冥府を訪問した夫の話であり、結局失敗した点でも、合致している。
失敗の具体的原因が、主人公が冥府で亡妻の姿を見てはならぬいう禁止に背いたことであったという、特異な細目まで一致している点で、ニュージーランドのマオリ族の話より、一致が顕著”(同書P140)と指摘してます。
イザナギがイザナミを黄泉の国から連れ戻すのに失敗した原因に、イザナギが「イザナミを見てはいけない」という約束を破ったからというのがありますが、マオリ族の話にはこの原因についての説明がありません。一方、オルペウスの話には、明確に原因が書かれてますね。
さらに、”イザナギが冥府からイザナミを連れて戻れなかった理由の一つは、イザナミがすでに冥界の食物を摂取したからだが、これときわめてよく似た話がギリシア神話にある。”と指摘してます(同書P140)。
具体的には、オルペウス伝説に出てきた冥界の王ハーデースの妃ペルセポネー女神の話です。
”(ペルセポネーとは)ゼウスとデーメーテールの娘(一説にはゼウスとステュクスの娘)で、ハーデース(ローマ神話のプルートーに相当)の妻として傍らに座しているとされる。
ペルセポネー(当時のコレー)は、ニューサ(山地であるが、どこであるのか諸説ある)の野原でニュムペー(妖精)たちと供に花を摘んでいた。するとそこにひときわ美しい水仙の花が咲いていたのである。ペルセポネーがその花を摘もうとニュムペーたちから離れた瞬間、急に大地が裂け、黒い馬に乗ったハーデースが現れ彼女は冥府に連れ去られてしまう。
オリュムポスでは、ペルセポネーが行方知れずになったことを不審に思った母デーメーテールが、太陽神ヘーリオスから、ハーデースがペルセポネーを冥府へと連れ去ったことを知る。女神はゼウスの元へ抗議に行くが、ゼウスは取り合わず、「冥府の王であるハーデースであれば夫として不釣合いではない」と発言した。これを聞き、娘の略奪をゼウスらが認めていることにデーメーテールが激怒し、オリュンポスを去り大地に実りをもたらすのをやめ、地上に姿を隠す。
一方、冥府に連れ去られたペルセポネーは丁重に扱われるも、自分から進んで暗い冥府に来た訳ではないため、ハーデースのアプローチに対しても首を縦に振らなかった。
その後ゼウスがヘルメースを遣わし、ハーデースにペルセポネーを解放するように伝え、ハーデースもこれに応じる形でペルセポネーを解放した。その際、ハーデースがザクロの実を差し出す。それまで拒み続けていたペルセポネーであったが、ハーデースから丁重に扱われていたことと、何より空腹に耐えかねて、そのザクロの実の中にあった12粒のうちの4粒(または6粒)を食べてしまった。
そして母であるデーメーテールの元に帰還したペルセポネーであったが、冥府のザクロを食べてしまったことを母に告げる。冥界の食べ物を食べた者は、冥界に属するという神々の取り決めがあったため、ペルセポネーは冥界に属さなければならない。デーメーテールはザクロは無理やり食べさせられたと主張してペルセポネーが再び冥府で暮らすことに反対するも、デーメーテールは神々の取り決めを覆せなかった。
そして、食べてしまったザクロの数だけ冥府で暮らす(1年のうちの1/3(または1/2)を冥府で過ごす)こととなり、彼女は冥府の王妃ペルセポネーとしてハーデースの元に嫁いで行ったのである。そしてデーメーテールは、娘が冥界に居る時期だけは、地上に実りをもたらすのを止めるようになった。これが冬(もしくは夏)という季節の始まりだという。
また、ペルセポネーが地上に戻る時期は、母である豊穣の女神デーメーテールの喜びが地上に満ち溢れるとされる。これが春という季節である。そのため、ペルセポネーは春の女神(もしくはそれに相当する芽吹きの季節の女神)とされる。ペルセポネーの冥界行きと帰還を中軸とするエレウシース秘儀は死後の復活や死後の世界における幸福、救済を保証するものだったと考えられている。”(Wikipediaより)
たしかに、ペルポセネーはザクロの実の中にあった粒を食べてしまったため、冥界に属さなければならなくなったわけで、イザナミが冥界の食物を食べてしまったから冥界から戻れなかった、という話と、パターンは同じです。
一方、このような話は世界のほとんどすべての地域に見出されるもので、驚くにあたらない、との反論もされてます(同書P141)。
しかしながらこのオルペウス型神話は、旧大陸においては、日本とギリシアにしかみられない、としてます。
また”もとは上界に居住していた有力な女神がなぜ冥界に所属する存在となり、死者の国の支配者となったかを説明するために用いられている点でも、一致している。”(同書P143)と指摘してます。
このようにみてくると、「ギリシア神話と日本神話の類似は単なる偶然ではない」という感が強くなってきますね。
↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!
通説では、中国江南地方が発祥であり、そこからインドシナ、メラネシアへと伝わる一方、日本列島にも伝わった、との説が有力視されているとしてます。
その一方で、インドシナ南部にかつて存在したスンダランドが発祥であり、そこから北上して中国江南地方を経て、あるいは直接黒潮に乗り海路で日本列島につたわった可能性について、お話しました。
ところが話はこれで終わりではこれでありません。
皆さんのなかには、日本神話のなかに、朝鮮半島や中央アジアなどいわゆる北方系の要素が多く含まれている、という話を聞いたことがある方も、多いと思います。
さらに、遠く西方に離れたギリシアやスキュタイ、インド、イラン、ゲルマン、ケルトなど、インドヨーロッパ語族とよばれる諸民族との関連も指摘されています。
日本の神話が、それら遠く離れた地域の神話と似ているというのは、単なる偶然でしょうか。それとも何らかの関係があるのでしょうか?。
ここからはそれら諸神話との関係をみていきましょう。
まず、イザナギの黄泉(よみ)の国訪問神話と、ギリシアの有名なオルペウス伝説との類似についてです。
イザナミの黄泉の国訪問の話と、ニュージーランドのマオリ族のあいだに伝わる神話が類似していることは、前にお話ししました。
詳しくは
「日本神話の源流(6)~国生みと神生み」
を参照ください。
ところがギリシアのオルペウス伝説にも同じような話があり、興味深いことに、ニュージーランドのマオリ族の神話よりもさらに著しい類似を示すというのです(同書P136)。
ではオルペウスについての概要です。
”(オルペウスは)ギリシア神話に登場する吟遊詩人であり、古代に隆盛した密儀宗教であるオルペウス教の始祖とされる。オルペウスの妻エウリュディケーが毒蛇にかまれて死んだとき、オルペウスは妻を取り戻すために冥府に入った。彼の弾く竪琴の哀切な音色の前に、ステュクスの渡し守カローンも、冥界の番犬ケルベロスもおとなしくなり、冥界の人々は魅了され、みな涙を流して聴き入った。
ついにオルペウスは冥界の王ハーデースとその妃ペルセポネーの王座の前に立ち、竪琴を奏でてエウリュディケーの返還を求めた。オルペウスの悲しい琴の音に涙を流すペルセポネーに説得され、ハーデースは、「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件を付け、エウリュディケーをオルペウスの後ろに従わせて送った。
目の前に光が見え、冥界からあと少しで抜け出すというところで、不安に駆られたオルペウスは後ろを振り向き、妻の姿を見たが、それが最後の別れとなった。” (Wikipediaより)

この話について、
”死んだ愛妻を連れ戻すため冥府を訪問した夫の話であり、結局失敗した点でも、合致している。
失敗の具体的原因が、主人公が冥府で亡妻の姿を見てはならぬいう禁止に背いたことであったという、特異な細目まで一致している点で、ニュージーランドのマオリ族の話より、一致が顕著”(同書P140)と指摘してます。
イザナギがイザナミを黄泉の国から連れ戻すのに失敗した原因に、イザナギが「イザナミを見てはいけない」という約束を破ったからというのがありますが、マオリ族の話にはこの原因についての説明がありません。一方、オルペウスの話には、明確に原因が書かれてますね。

さらに、”イザナギが冥府からイザナミを連れて戻れなかった理由の一つは、イザナミがすでに冥界の食物を摂取したからだが、これときわめてよく似た話がギリシア神話にある。”と指摘してます(同書P140)。
具体的には、オルペウス伝説に出てきた冥界の王ハーデースの妃ペルセポネー女神の話です。
”(ペルセポネーとは)ゼウスとデーメーテールの娘(一説にはゼウスとステュクスの娘)で、ハーデース(ローマ神話のプルートーに相当)の妻として傍らに座しているとされる。
ペルセポネー(当時のコレー)は、ニューサ(山地であるが、どこであるのか諸説ある)の野原でニュムペー(妖精)たちと供に花を摘んでいた。するとそこにひときわ美しい水仙の花が咲いていたのである。ペルセポネーがその花を摘もうとニュムペーたちから離れた瞬間、急に大地が裂け、黒い馬に乗ったハーデースが現れ彼女は冥府に連れ去られてしまう。
オリュムポスでは、ペルセポネーが行方知れずになったことを不審に思った母デーメーテールが、太陽神ヘーリオスから、ハーデースがペルセポネーを冥府へと連れ去ったことを知る。女神はゼウスの元へ抗議に行くが、ゼウスは取り合わず、「冥府の王であるハーデースであれば夫として不釣合いではない」と発言した。これを聞き、娘の略奪をゼウスらが認めていることにデーメーテールが激怒し、オリュンポスを去り大地に実りをもたらすのをやめ、地上に姿を隠す。
一方、冥府に連れ去られたペルセポネーは丁重に扱われるも、自分から進んで暗い冥府に来た訳ではないため、ハーデースのアプローチに対しても首を縦に振らなかった。
その後ゼウスがヘルメースを遣わし、ハーデースにペルセポネーを解放するように伝え、ハーデースもこれに応じる形でペルセポネーを解放した。その際、ハーデースがザクロの実を差し出す。それまで拒み続けていたペルセポネーであったが、ハーデースから丁重に扱われていたことと、何より空腹に耐えかねて、そのザクロの実の中にあった12粒のうちの4粒(または6粒)を食べてしまった。
そして母であるデーメーテールの元に帰還したペルセポネーであったが、冥府のザクロを食べてしまったことを母に告げる。冥界の食べ物を食べた者は、冥界に属するという神々の取り決めがあったため、ペルセポネーは冥界に属さなければならない。デーメーテールはザクロは無理やり食べさせられたと主張してペルセポネーが再び冥府で暮らすことに反対するも、デーメーテールは神々の取り決めを覆せなかった。
そして、食べてしまったザクロの数だけ冥府で暮らす(1年のうちの1/3(または1/2)を冥府で過ごす)こととなり、彼女は冥府の王妃ペルセポネーとしてハーデースの元に嫁いで行ったのである。そしてデーメーテールは、娘が冥界に居る時期だけは、地上に実りをもたらすのを止めるようになった。これが冬(もしくは夏)という季節の始まりだという。
また、ペルセポネーが地上に戻る時期は、母である豊穣の女神デーメーテールの喜びが地上に満ち溢れるとされる。これが春という季節である。そのため、ペルセポネーは春の女神(もしくはそれに相当する芽吹きの季節の女神)とされる。ペルセポネーの冥界行きと帰還を中軸とするエレウシース秘儀は死後の復活や死後の世界における幸福、救済を保証するものだったと考えられている。”(Wikipediaより)

たしかに、ペルポセネーはザクロの実の中にあった粒を食べてしまったため、冥界に属さなければならなくなったわけで、イザナミが冥界の食物を食べてしまったから冥界から戻れなかった、という話と、パターンは同じです。
一方、このような話は世界のほとんどすべての地域に見出されるもので、驚くにあたらない、との反論もされてます(同書P141)。
しかしながらこのオルペウス型神話は、旧大陸においては、日本とギリシアにしかみられない、としてます。
また”もとは上界に居住していた有力な女神がなぜ冥界に所属する存在となり、死者の国の支配者となったかを説明するために用いられている点でも、一致している。”(同書P143)と指摘してます。
このようにみてくると、「ギリシア神話と日本神話の類似は単なる偶然ではない」という感が強くなってきますね。
↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!
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