日本神話の源流(21)~ナルト抒情詩とオルペウス神話
さて先に、ギリシア神話のオルペウスの冥府行きの話が、日本神話のイザナギの黄泉の国訪問と似ている、という話をしました。
吉田氏は、ナルト抒情詩のなかにも似ているものがある、と述べてます。
ひとつは、ナルトのソフランが遠征に出かけた留守のあいだに、ナルトたちによって冥府に投げこまれた母のサタナを救出するために死者の国に赴き、冥府の王バラステュルの許可を得て、母を上界に連れ帰ることに成功したとされている話です。
もうひとつは、ソフランは冥府に妻を訪問したが、この時の訪問の目的は、死んだ妻を生き返らせることではなく、太陽の娘と結婚するため、亡き妻の助けを借りることであった、という話です。
二番目の話について、吉田氏は、
”主人公が冥府で与えられた禁令を守らなかったために、不幸な目に遭ったという、オルペウスとイザナギの話に共通する禁忌の話根とよく似たモチーフが含まれている。”
と述べてます。
あらすじは次のとおりです。
・ソスランは、冥府を出発する前に、亡き妻から、何を見つけようとも決して触れぬようにと注意された。
・最初はこの注意を守っていたが、最後に古ぼけた帽子を拾い上げて、帯の間に挟んだ。
・ソウランはナルトの村の近くにきてひと休みすると、突然気まぐれをおこし、愛馬に向かって、「お前の急所を教えろ」と問いただし始めた。
・馬はしぶしぶ「蹄の裏側」と答え、今度は馬が「急所を教えろ」と問いただした。
・ソスランは、「ひざ」と答えた。
・馬は、「あなたは私とあなたを破滅させたのだ。古い帽子はずる賢いシュルドンだったのだ」と言った。
・こうして古い帽子に変身して待ち伏せしていたシュルドンに、自分と馬の弱点を知られてしまった。
・このことがソスランの死の原因となった。
この話は、ソスランが、亡き妻の注意を守らずに古ぼけた帽子を拾い上げたために気まぐれをおこし、シュルドンに自分と愛馬の弱点を教えてしまうはめに陥り、それが原因で死んでしまう、というストーリーです。
たしかに、「禁忌の話根」のモチーフという観点からみれば、似てるといえば似てます。
一方、オルペウスとイザナギの話では、冥府訪問の目的は、両者とも死んだ妻を連れ戻すためですが、ソスランの場合は、太陽の娘との結婚するために亡き妻の助けを借りるためであり、異なります。
そうなるとはたしてナルト神話(ソスラン)が、ギリシア神話(オルペウス)や日本神話(イザナギ)と関係しているといえるのか、という疑問も残ります。
ようは偶然の一致ではないのか?、ということです。
人間は、今も昔も似たようなことを考えるものでしょう。
目的を達するために旅に出たものの、約束や注意を守らなかったために失敗した、というのはだれでも思いつく話であり、また聞いているほうにとっても面白く興味を引く話です。ですから作者が話を作った際に、たまたま同じようなストーリーになった、という可能性もなくはないとも考えられますが、次に進みます。
吉田氏は、この話のなかに、注意を引くもうひとつの点として、
”ソフランが死者の国に亡妻を訪ねる、というオルペウスを彷彿とさせるような、霊妙な魔力をもつ音楽の奏者として、再度にわたり描写されていること。”
を挙げてます。
あらすじは、
・ソスランは、一頭の鹿の跡を追っていくうちに、太陽の娘の住む城に行き着いた。
・城で、自分がこの美女の婚約者として定められていた人物であることを知らされた。
・しかしそれと同時に、彼は結婚の条件として、いくつかの難題を課された。
・そしてその一つの、冥府に生える樹の葉を獲得するという課題を果たすために、彼は亡妻の助けを得ようとして、死者の国を訪問した。
というものです。
このなかで、
1.ソスランが城に足を踏み入れたとき、二弦の楽器を奏で、妙なる楽の音を鳴り響かせると、野の獣や空の鳥が集まってきて聴き、城の壁までが躍り出し、遠くの山々までもこだまを返して伴奏をつとめた。
2.太陽の娘との結婚の条件として、三百頭の獣を集めて引き渡すという課題があった。これを果たすために、笛を吹き鳴らすと、その音楽につられてたちまち集まった。
と描写されてます。
これが
”霊妙な音楽の力で、野獣や木石をも感動させたといわれる、ギリシア神話のオルペウスと酷似している。”
と指摘してます。
たしかに似ていますね。
もっともこの類似についても、古代において王権と祭祀は一体のものであり、祭祀と音楽は強い結びつきがありましたから、「王たるものが楽器を奏でれば、森羅万象すべてを支配できるのだ」という思想がもともと広く地域一帯にあった可能性があります。
そうなると、必ずしも神話の伝播ということを考えなくとも、説明はできます。
ところで、吉田氏は指摘してないのですが、私はもうひとつ、日本神話との類似に興味をもちました。
「ソスランが結婚の条件として、いくつかの難題を課された」というところです。
ここが、オオクニヌシの話と似ています。
あらすじは、
・八十神達の暗殺計画から逃げたオオクニヌシは、スサノオが住む「根の堅洲国(ねのかたすくに)」に行く。
・そこでスサノオの娘、スセリヒメと出会い、一目惚れする。
・オオクニヌシはスサノオに結婚の許しを請う。
・スサノオは簡単には応じず、「蛇がいっぱいいる部屋で一晩過ごす」「ムカデと蜂の部屋に閉じ込められて一晩を過ごす」などの条件を出す。
・オオクニヌシはすべて成功して、スセリヒメと結ばれる。
というものです。
もちろんこの話も、娘との結婚の承諾にきた男に、無理難題を押し付ける、というどこにでもある話ではありますが、パターンとしては似てるといえます。
↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!
吉田氏は、ナルト抒情詩のなかにも似ているものがある、と述べてます。
ひとつは、ナルトのソフランが遠征に出かけた留守のあいだに、ナルトたちによって冥府に投げこまれた母のサタナを救出するために死者の国に赴き、冥府の王バラステュルの許可を得て、母を上界に連れ帰ることに成功したとされている話です。
もうひとつは、ソフランは冥府に妻を訪問したが、この時の訪問の目的は、死んだ妻を生き返らせることではなく、太陽の娘と結婚するため、亡き妻の助けを借りることであった、という話です。
二番目の話について、吉田氏は、
”主人公が冥府で与えられた禁令を守らなかったために、不幸な目に遭ったという、オルペウスとイザナギの話に共通する禁忌の話根とよく似たモチーフが含まれている。”
と述べてます。
あらすじは次のとおりです。
・ソスランは、冥府を出発する前に、亡き妻から、何を見つけようとも決して触れぬようにと注意された。
・最初はこの注意を守っていたが、最後に古ぼけた帽子を拾い上げて、帯の間に挟んだ。
・ソウランはナルトの村の近くにきてひと休みすると、突然気まぐれをおこし、愛馬に向かって、「お前の急所を教えろ」と問いただし始めた。
・馬はしぶしぶ「蹄の裏側」と答え、今度は馬が「急所を教えろ」と問いただした。
・ソスランは、「ひざ」と答えた。
・馬は、「あなたは私とあなたを破滅させたのだ。古い帽子はずる賢いシュルドンだったのだ」と言った。
・こうして古い帽子に変身して待ち伏せしていたシュルドンに、自分と馬の弱点を知られてしまった。
・このことがソスランの死の原因となった。
この話は、ソスランが、亡き妻の注意を守らずに古ぼけた帽子を拾い上げたために気まぐれをおこし、シュルドンに自分と愛馬の弱点を教えてしまうはめに陥り、それが原因で死んでしまう、というストーリーです。
たしかに、「禁忌の話根」のモチーフという観点からみれば、似てるといえば似てます。

一方、オルペウスとイザナギの話では、冥府訪問の目的は、両者とも死んだ妻を連れ戻すためですが、ソスランの場合は、太陽の娘との結婚するために亡き妻の助けを借りるためであり、異なります。
そうなるとはたしてナルト神話(ソスラン)が、ギリシア神話(オルペウス)や日本神話(イザナギ)と関係しているといえるのか、という疑問も残ります。
ようは偶然の一致ではないのか?、ということです。
人間は、今も昔も似たようなことを考えるものでしょう。
目的を達するために旅に出たものの、約束や注意を守らなかったために失敗した、というのはだれでも思いつく話であり、また聞いているほうにとっても面白く興味を引く話です。ですから作者が話を作った際に、たまたま同じようなストーリーになった、という可能性もなくはないとも考えられますが、次に進みます。
吉田氏は、この話のなかに、注意を引くもうひとつの点として、
”ソフランが死者の国に亡妻を訪ねる、というオルペウスを彷彿とさせるような、霊妙な魔力をもつ音楽の奏者として、再度にわたり描写されていること。”
を挙げてます。
あらすじは、
・ソスランは、一頭の鹿の跡を追っていくうちに、太陽の娘の住む城に行き着いた。
・城で、自分がこの美女の婚約者として定められていた人物であることを知らされた。
・しかしそれと同時に、彼は結婚の条件として、いくつかの難題を課された。
・そしてその一つの、冥府に生える樹の葉を獲得するという課題を果たすために、彼は亡妻の助けを得ようとして、死者の国を訪問した。
というものです。
このなかで、
1.ソスランが城に足を踏み入れたとき、二弦の楽器を奏で、妙なる楽の音を鳴り響かせると、野の獣や空の鳥が集まってきて聴き、城の壁までが躍り出し、遠くの山々までもこだまを返して伴奏をつとめた。
2.太陽の娘との結婚の条件として、三百頭の獣を集めて引き渡すという課題があった。これを果たすために、笛を吹き鳴らすと、その音楽につられてたちまち集まった。
と描写されてます。
これが
”霊妙な音楽の力で、野獣や木石をも感動させたといわれる、ギリシア神話のオルペウスと酷似している。”
と指摘してます。
たしかに似ていますね。
もっともこの類似についても、古代において王権と祭祀は一体のものであり、祭祀と音楽は強い結びつきがありましたから、「王たるものが楽器を奏でれば、森羅万象すべてを支配できるのだ」という思想がもともと広く地域一帯にあった可能性があります。
そうなると、必ずしも神話の伝播ということを考えなくとも、説明はできます。
ところで、吉田氏は指摘してないのですが、私はもうひとつ、日本神話との類似に興味をもちました。
「ソスランが結婚の条件として、いくつかの難題を課された」というところです。
ここが、オオクニヌシの話と似ています。
あらすじは、
・八十神達の暗殺計画から逃げたオオクニヌシは、スサノオが住む「根の堅洲国(ねのかたすくに)」に行く。
・そこでスサノオの娘、スセリヒメと出会い、一目惚れする。
・オオクニヌシはスサノオに結婚の許しを請う。
・スサノオは簡単には応じず、「蛇がいっぱいいる部屋で一晩過ごす」「ムカデと蜂の部屋に閉じ込められて一晩を過ごす」などの条件を出す。
・オオクニヌシはすべて成功して、スセリヒメと結ばれる。
というものです。
もちろんこの話も、娘との結婚の承諾にきた男に、無理難題を押し付ける、というどこにでもある話ではありますが、パターンとしては似てるといえます。
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