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古事記・日本書紀のなかの史実 (51) ~ 天岩戸神話⑥

小林氏論文の続きです。

”孰れにしても太陽神の天照大神は馬形のスサノオに強要せられて彼と神婚し,その大豊勢のために女陰を傷けて天石窟に幽居すなわち逝去したということをもって,春夏の輝しい太陽が冬属のた めに凌害せられて衰滅し,やがて陰闇の厳冬に世界の蔽われたことが示唆されている。

しかも万物を衰滅せしめる冬属はすなわち死腐にほかならぬから,これは根国すなわち冥界の神のスサノオとの婚合によって太陽が生気を失い死減したことともなり,このミコトの冬属神にしてまた冥界神た る性格が茲に殊にあきらかに出ている。
しかるに少し後で述べるように,ポセイドーンにもまたそういう冬神 一 冥神の性格が顕著にある。

さて天照大神の岩戸隠れすなわち逝去にあって,この世界に日も照らず,草木みな枯れて作物みの らず,天地も人も悲歎にくれてみな号泣したということで,古代農耕民の最も痛切に体験した冬の 恐怖と悲しみとがよく現されている。
しかも茲に,
「此に因りて常夜ゆく,是に万の神の声(おとない)は,狭蠅なす皆湧き,万の妖(わざわい)悉に発りき」
という同じ言葉が,前にスサノオノミコト誕生の条に,
「其泣きたまう状は,青山を枯山なす泣枯し, ……荒ぶる神の音(おとない),狭蝿なす皆満(わ)き,万の物の妖(わざわい)悉に発りぎ。」
としてすでに見えていることは注意すべきで,要するにこの冬属,死減,号泣,闇黒,妖魅災害の神が,春夏の歓喜の神に代って世界をいま支配しはじめたのである。”

このようにアマテラスが天岩戸にこもった理由を、騎馬族の侵略と冬の到来に掛け合わせているとしています。注目すべきは、小林氏は、ここで日食と関連づけていないことです。あくまで冬の到来による暗黒の日々の恐怖としていますね。


”それで諸神は大いに困って集会し,衰滅した生命の根元すなわち太陽を刺激して急に回生復活させるため,春の歓楽の祭儀すなわち万物の生命を産む陰陽和合の神婚を岩戸の前で殊さら花やか に催すことになった。そのときアメノウズメノミコトが神懸りして,胸乳をかきいで,裳緒(もひ も)を番登(ほと)におし垂れておかしく舞踊し,諸神それを見て高天原もゆするように笑ったの で,天照大神も不思議に息って岩戸をほそめに開けたところを引き『ずり出した』ということになっているが,これはすこしおかしい。”

さて失われた太陽を復活再生させるために、春の喜びの祭儀を行ったが、それが神婚の儀式だったと指摘しています。その論拠について、次に述べています。前著「日本古代史の謎6 日本神話はいつどこから伝わったか」でも書きましたが、詳しくみてみましょう。


そういう予供だましのように愚かな話の奥には何か隠すべきものが隠されされているはずで、だいいちウズメノミコトがせっかく乳やほとまであらわして踊りながら、ただ神々を笑わせただけ というのは、まるで後代のばかげた余興にすぎない。古代の祭儀ならそこに必ず男神の対手があ り、また神婚が行われたはずで、現にその対手にはサルダヒコという適任の者が居る。

すなわち天孫ニニギノミコトが天降りのときに,天の八衢にいて立ちふさいだサルダヒコがそれで,『書紀』に引く一書や『古語拾遺』にいま伝わる神話では、この天降りのときに ,やはりアメノウズメノミコトが胸乳を露し,裳帯を臍下に押し下して, 鼻の長さ七尋余もあるこの男神に,笑って立ち向ったところ ,サルダヒコはお供に仕えるため参向しましたと言ったことになっている。

しかしただそれだけのことなら,何のために彼の鼻が七尋もあるのか,また何の必要あってウズメ が乳や陰まであらわして笑って彼に立ち向ったのか,一向にわからない。すなわち厳粛な天孫降臨の際に,この愚劣な一塲面が何故に必要なのか全くわからない。

それは明かにどこからかそこに 移されてきたもので、神詣には屡々こういう移転の例がある。すなわちこの場面は当然岩戸の前へ 還元すべきもので ,そこで胸乳や陰処を出して笶い踊る神懸りのウズメと,大豊勢のサルダヒコ との神婚があったとすれば,それはもはや愚劣でなく,劫って最も適切な太陽復活・陽春再生の呪願をこめた祭儀として完全に生きてくる。

すなわちその神婚の祭儀から奔出する生命力が, 衰滅した太陽神に忽ち伝わり,その回生復活を強く刺激して,この世にふたたび光り輝く陽春の生命の歓喜を齎したのである。その春のよろこびを,『古語拾遺』には,「此の時に当って,上天初めて晴れて,衆倶に相見るに,面皆朗白なりき。手を伸べて歌い舞い,枳与に称えて曰く,あはれ,あなおもろ,あなたのし,あなさやけ,おけ。」と記している。”

ずいぶんと生々しい話ですが、ようするにアメノウズメは、アマテラスを天岩戸から誘い出すために、現代の私たちからするとずいぶんと品のない踊りを、単に思い付きで面白おかしく踊ったのではない。対手に男神であるサルタヒコがいて、彼との神婚の儀式を行ったのだ、ということになります。
そしてその神婚の儀式とは、太陽の復活の歓喜を表したものだ、という解釈です。

サルダヒコは、日本書紀一書の天孫降臨の場面にも登場します。
たしかに、そこでは、アメノウズメの他、サルタヒコが出てきます。アメノウズメが裸になる描写などは、そっくりです。

こうしたことから、この話は、もともとは天岩戸神話のなかにあった話を、天孫降臨の場面にもっていったと推測しています。さらに神婚の儀式があった、と指摘しているわけです。

小林太市郎氏は、元神戸大学教授で、美術史・芸術学者でした。
”芸術作品をその根底に潜む性的欲望を中心に分析する傾向が目立つので、フロイト的と評されることもあり”(Wikipediaより)とあるとおり、そうした傾向が強いことは否めないでしょう。

ただし、古代の祭祀においては、男女一組による神婚が行われていたと考えられるので(「古代の宗像氏と宗像信仰」(亀井勝一郎)P11・18)、この場面の解釈でも、ありうるのではないかと考えます。
あるいは神婚とまではいえないとしても、当時行われていた何らかの儀式を表現したものである、という見方も可能性でしょう。


"かようにして天照大神とスサノオノミコトとの神話は,古くわれわれの祖先が年毎の春のはじめ に,冬に衰えた太陽を速く回生復活させ,歓喜に輝く陽春を迎えるために,殊に盛大に催した神婚 の祭儀から発生したもので,しかもその hieros gamos の経過を,漢恥の要請からしてかなり歪曲 して伝えている。

その歪曲を茲に試みたように還元してみると,原初の祭儀の過程をほぼ朗確に復原し得るのであっ て,それはまず天安河における神婚,すなわち農耕神の太陽女神が騎馬族の馬形男神のために脅迫せられての神婚の場面から始まる。もちろん女神も男神も男女の巫によって代行せられ,参会の衆男女が諸神となってまたそれに倣うわけであるが,茲に騎馬族侵寇の恐怖の再現があることは言 うまでもない。これが第一場である。

ついで第二場はすなわち馬神の狂暴な豊勢に傷いた太陽女神の死と,闇黒になった冬の世界の絶望 とで,衆人の悲痛の号泣が祭の庭に鋭くひびくこととなる。

そうして第三場は,太陽女神を刺激して復活させるためのウズメとサルダヒコとの花やかな神婚で ,その面白く滑稽なことは殆どニンフとサチュロスのそれを彷彿させたにちがいない。そうしてそ れがやがて奏効して天照大神は輝しく回生し,スサノオは放逐せられて冬属去り,茲に一陽来復の 大歓楽のどよめきが高らかに揚がるようになる。

すなわち恐らく三日にわたるこの三場面をもって,陽春促進のこの春の祭は構成されていたにち がいない。”

三日にわたる三場面によって構成されていた、と推測しています。これがギリシア神話と同じである、と続くのですが、それはさておき、まことに想像力豊かな論説です。

はたして神婚があったのか、また天孫降臨の話も本来は天岩戸神話の場面の話だったのか、についてはなんともいえません。

ただし少なくとも、何らかの祭儀があり、実際にそれが代々演じられ伝えらえたということでしょう。

アメノウズメ像


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青松光晴

Author:青松光晴
古代史研究家。理工系出身のビジネスマンとして一般企業に勤務する傍ら、古代史に関する情報を多方面から収集、独自の科学的アプローチにて、古代史の謎を解明中。特技は中国拳法。その他、現在はまっている趣味は、ハーブを栽培して料理をつくることです。
著書です。



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