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古事記・日本書紀のなかの史実 (60) ~「妻籠み」とは?

前回は、スサノオの歌中に3回も出てくる「「垣」とは、実際に建てられた「垣」ではないか、という話でした。

もうひとつの注目は「妻籠(つまご)み」です。
それほど注目されてない言葉で、「妻を籠らせるために」などとと訳されています。

ではそもそも「妻を籠らせる」とはどういう意味でしょうか?
よくわかりませんよね。そこには何か深い意味があるのではないでしょうか?

”結婚式当日、花嫁とその付き添いの娘たちが、朝まだ暗いうちに新郎の村にやって来て、村のはずれに待機していた。夜明けとともに相撲などいくつかの行事があったあとで、村の青年が花嫁を青年の背中に横座りになるような形で背負い、竹垣で囲まれた仮小屋に連れて行った。
その仮小屋は、四本の細い松(葉付き)の柱に六本の松(同)を載せ、竹製の巻きすだれ状の垣で周囲を囲ってある(写真参照)。下には松の枯れ葉などが敷きつめてある。

花嫁を背負っていた青年が花嫁を竹垣の中に下ろし、いったん横に寝かせてから座らせる。そして竹垣の入り口が閉じられ、花嫁がこの仮小屋にいる間ずっと、二人の青年が入り口に立つ。料理もこの竹垣の中に届けられ、竹垣の外で催されている相撲など行事が終わると、付き添いの娘たちと一緒に自分の村へ帰って行く。この日は新郎とは顔を合わせない。

これはまさに、「妻籠み」の「垣」そのものである。花嫁を寝かせておくこの竹垣の囲いは、「妻を籠める」ための「垣」の民俗事例として最初の実例報告であろう。”(
『古事記の起源』(工藤隆 中公新書)P180-182より)

イ族の妻籠み
たしかに花嫁が、竹垣の中に座っています。「妻籠み」という言葉そのままのようです。
では「垣」は、なぜそれほど重要なものなのでしょうか?

論文中では、
”工藤が紹介したイ族の結婚式における「妻籠み」の竹垣のような習俗は「迎親棚」または「坐棚」と呼ばれる。
蔡昌茂によれば、イ族の結婚式には、「迎親入棚」→「背親入門」→「回門探親」→「入住夫家」という四つの空間転換のプロセスがある[蔡2012]。つまり、「坐棚」は婚姻における通過儀礼の一環で、この「竹垣」は一つの過渡的な空間だと思われる。さらに、イ族の「竹垣」の下には、松の枯れ葉などが敷かれ、清浄性を帯びた聖なる空間が現れる。

前述したミャオ族の「未婚者の坐花場」は村内になく、「既婚者の坐花場」に近いが、お互いに邪魔しない。未婚者の親、兄弟も干渉しない。また前述のように、「坐花場」はミャオ語でnib ros benx といい、nib にはさらに「嫁」、「嫁ぐこと」の意味がある。字義通り解釈すれば、「花場」と「嫁」は何かしら関係があり、娘たちには「花場」に「坐」すことを通じて、「嫁」になるという結果をもたらすのだろう。

また、ミャオ族の「掃花垣」という慣習から、「花垣」は終始その清浄さを保つ必要がある。つまり、イ族の「竹垣」でも、ミャオ族の「花場」でも、すべて生活空間として日常的なものではなく、大切な恋・婚姻に関する非日常的で神聖的かつ清浄な儀礼的な空間だといえる。”

つまり「垣」とは、「聖域を区別する場所を標示した意味をもつ」ということです。
それだからこそ、スサノオは「垣」にこだわったのでしょう。つまり「自分たち夫婦の領域は聖域だ」と主張しているのでしょう。

さらに想像をたくましくすれば、そこには外敵の存在があったと考えることもできます。具体的には、ヤマタノオロチを信仰する人々から自分たちを守るため、という見方もできます。
ここに新たな拠点を作ることができた。こう解釈すると、あの歌のもつ意味も味わいが深まります。つまり「喜びの雄叫びの歌」となりまります。

そしてそのあとアシナヅチを呼んで、「お前は私の宮の主となれ」と言い、名を稲田宮主須賀之八耳(イナダノミヤヌシスガノヤツミミ)神と名付けたという流れが、すっきりと理解できますね。

↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!



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テーマ : 歴史
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青松光晴

Author:青松光晴
古代史研究家。理工系出身のビジネスマンとして一般企業に勤務する傍ら、古代史に関する情報を多方面から収集、独自の科学的アプローチにて、古代史の謎を解明中。特技は中国拳法。その他、現在はまっている趣味は、ハーブを栽培して料理をつくることです。
著書です。



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