日本語系統論(1) 主要な語族の分布が示すこと
今回から、話題をガラッと変えて、日本語系統論についてみてきます。
このブログを始めて以来、中国史書など外国文献、古事記・日本書紀など国内文献のほか、考古学・地理地質学・気候変動学・遺伝子学・統計学など科学的データから、日本古代史の真実に迫ってきました。
実はこれまで取り上げてこなかったテーマがあります。それは「日本語はいつどこから伝わったのか?」という日本語系統論です。
日本古代史の真実解明と日本語系統論は、リンクしているはずですが、あえて取り上げなかったのには、理由があります。
それは「日本語はいつどこから伝わったのか?」という問いに対して、今までさまざまな説が提唱されていますが、どれもしっくりくるものがなかったからです。たとえば、外国にある日本語に似た言葉を探してきて、〇〇から伝わったのだろう、と推測する説です。
似たような言葉は、世界中探せばいくらでも見つかるのであって、はたしてそれが本当に伝わったのか、それとも単なる偶然に過ぎないのか、判然としないわけです。
そんななか、ある一つの説を知りました。それは松本克巳氏(金沢大学・静岡県立大学名誉教授)の提唱する説で、まさにその疑問に答える形の説を提唱しています。
簡単にいえば、単なる言葉の類似というものだけでは、関係性はわからない。もっと根源的なもの、つまり時代を経ても変化しない言語の特徴ー発声形式などーを、古今東西すべての言語について検証すれば、その関係性がみえてくる、という考え方です。
私自身、納得感のあるもので、私の古代史探究にも十分活用できると感じました。ということで、松本氏の説を紹介しながら、それらを整理しつつ、日本古代史との関係性を探っていきたいと思います。
それでは、松本氏の説を概略みてきましょう。「世界言語のなかの日本語」からです。
冒頭、
”日本語は、外部からの移住者によってもたらされたとする大方の見方には同意するが、問題はそれがいつもたらされたかである。”
と問題提起します。それに対して、
”日本語の成立をいわゆる稲作民族の到来に結びつける考えは、柳田邦男以来、根強い。”
と述べたうえで、この考えに異を唱えます。その理由として、
”・弥生時代の始まりと言えば、今からたかだか2,300年ほど前に過ぎない。
・共通の源から分岐して2,000ないし2,500年程度を経過した言語の間には、それほど大きな違いは生じない。
・日本語の”同系語”に擬された言語の中に、稲作や米文化に関する”同源語”を探し当てたというようなまことしやかな主張がときおり見受けられるけども、言語史の常識を無視した時代錯誤もはなはだしい論と言わざるを得ない。
・日本語のルーツは、弥生時代を超えて縄文の過去にまで遡ると見なければならない。”
と論じます。
これは当然の考えに聞こえます。現代日本において、弥生系渡来人の言葉が支配的であったとしても、もともと住んでいた縄文人の言葉が残っていないわけがありませんよね。
さて次に語族について解説します。
語族とは、
”共通の祖語から派生した諸言語の総体。たとえば,英語,フランス語,ロシア語,ギリシア語は,音韻の対応,文法や語彙の類似から,古い時代にある共通の言語から変化して分れたものと推定され,インド=ヨーロッパ語族という語族に属するといわれる。”(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「語族」より)
主要な語族として、
・ユーラシア大陸
インドヨーロッパ語族・セム語族・ウラル語族・ドラヴィダ語族・チベットビルマ語族・オーストロアジア語族
・アフリカ大陸
バントゥー(あるいはそれを含むニジェル・コンゴ)語族
・太平洋地域
オーストロネシア語族
などが挙げられます。
以上の語族は、系統関係がはっきりしている、すなわち起源についてもわかっているということになります。
これに対して、”語族への帰属がはっきりしない言語や、ごく限られた地域で少数の同系語(ないし同系方言)しかもたない言語というものも数多く残されている。”と述べています。たとえば、日本語・朝鮮語・アイヌ語・ギリヤーク語だといいます。
その分布がとても興味深いです。
”新石器時代以降に発達した人類の主要な文明の中心地から隔たった周辺地域か、あるいは地理的に周囲から隔絶した地域”であり、
・日本語を含む北太平洋沿岸部からシベリア北東部
・オーストラリア(とりわけ北西部)、ニューギニア(特に高地部)
・南北アメリカ大陸(特に北アメリカの西海岸や南米のアマゾン地域)
に分布しています。
これに対して、
”アフリカやユーラシアの中心部ならびにその西方に位置するヨーロッパは、言語の分布は非常に等質的で、それらの系統関係もはっきりしている。”
と述べています。
例外として、系統不明の言語は、
バスク語(フランスとスペイン国境)、ブルジャスキー語(パキスタン北部山岳地帯)・ナハーリー語(インド中央部)、カフカス(アジア中央部)
があります。
またその後の氏の著書「ことばを巡る諸問題」によると
ケット語(西シベリアのエニセイ川流域)
クスンダ語(東部ヒマラヤ地域)
も該当します(同書P249より)
以下に分布を示します。なお、日本語・朝鮮語・アイヌ語・ギリヤーク語は、環日本海諸語としています。ナハーリー語・クスンダ語は、地域が狭く場所も不鮮明なので記載してません。

分布に特徴があることが、よくわかりますね。そして主要な語族について、
”旧大陸を中心に広い地域に分布する印欧語その他の主要な語族は、それぞれの祖語の年代が、大体今から5,000~6,000年前に設定できる。つまり、人類が新石器時代の長い停滞期を終えて、新しい文明時代を迎える丁度その開幕期の頃に姿を現し、かなり短期化の間にその勢力範囲を拡張して、現在見るような語族の分布図を形作ったと考えることができよう。”(以上「世界言語のなかの日本語」(松本克己)P2-5より)
と述べています。
逆にいえば、日本語をはじめとする系統がはっきりしない言語は、それ以前に話されていた古層の言語ということになります。
↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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実はこれまで取り上げてこなかったテーマがあります。それは「日本語はいつどこから伝わったのか?」という日本語系統論です。
日本古代史の真実解明と日本語系統論は、リンクしているはずですが、あえて取り上げなかったのには、理由があります。
それは「日本語はいつどこから伝わったのか?」という問いに対して、今までさまざまな説が提唱されていますが、どれもしっくりくるものがなかったからです。たとえば、外国にある日本語に似た言葉を探してきて、〇〇から伝わったのだろう、と推測する説です。
似たような言葉は、世界中探せばいくらでも見つかるのであって、はたしてそれが本当に伝わったのか、それとも単なる偶然に過ぎないのか、判然としないわけです。
そんななか、ある一つの説を知りました。それは松本克巳氏(金沢大学・静岡県立大学名誉教授)の提唱する説で、まさにその疑問に答える形の説を提唱しています。
簡単にいえば、単なる言葉の類似というものだけでは、関係性はわからない。もっと根源的なもの、つまり時代を経ても変化しない言語の特徴ー発声形式などーを、古今東西すべての言語について検証すれば、その関係性がみえてくる、という考え方です。
私自身、納得感のあるもので、私の古代史探究にも十分活用できると感じました。ということで、松本氏の説を紹介しながら、それらを整理しつつ、日本古代史との関係性を探っていきたいと思います。
それでは、松本氏の説を概略みてきましょう。「世界言語のなかの日本語」からです。
冒頭、
”日本語は、外部からの移住者によってもたらされたとする大方の見方には同意するが、問題はそれがいつもたらされたかである。”
と問題提起します。それに対して、
”日本語の成立をいわゆる稲作民族の到来に結びつける考えは、柳田邦男以来、根強い。”
と述べたうえで、この考えに異を唱えます。その理由として、
”・弥生時代の始まりと言えば、今からたかだか2,300年ほど前に過ぎない。
・共通の源から分岐して2,000ないし2,500年程度を経過した言語の間には、それほど大きな違いは生じない。
・日本語の”同系語”に擬された言語の中に、稲作や米文化に関する”同源語”を探し当てたというようなまことしやかな主張がときおり見受けられるけども、言語史の常識を無視した時代錯誤もはなはだしい論と言わざるを得ない。
・日本語のルーツは、弥生時代を超えて縄文の過去にまで遡ると見なければならない。”
と論じます。
これは当然の考えに聞こえます。現代日本において、弥生系渡来人の言葉が支配的であったとしても、もともと住んでいた縄文人の言葉が残っていないわけがありませんよね。
さて次に語族について解説します。
語族とは、
”共通の祖語から派生した諸言語の総体。たとえば,英語,フランス語,ロシア語,ギリシア語は,音韻の対応,文法や語彙の類似から,古い時代にある共通の言語から変化して分れたものと推定され,インド=ヨーロッパ語族という語族に属するといわれる。”(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「語族」より)
主要な語族として、
・ユーラシア大陸
インドヨーロッパ語族・セム語族・ウラル語族・ドラヴィダ語族・チベットビルマ語族・オーストロアジア語族
・アフリカ大陸
バントゥー(あるいはそれを含むニジェル・コンゴ)語族
・太平洋地域
オーストロネシア語族
などが挙げられます。
以上の語族は、系統関係がはっきりしている、すなわち起源についてもわかっているということになります。
これに対して、”語族への帰属がはっきりしない言語や、ごく限られた地域で少数の同系語(ないし同系方言)しかもたない言語というものも数多く残されている。”と述べています。たとえば、日本語・朝鮮語・アイヌ語・ギリヤーク語だといいます。
その分布がとても興味深いです。
”新石器時代以降に発達した人類の主要な文明の中心地から隔たった周辺地域か、あるいは地理的に周囲から隔絶した地域”であり、
・日本語を含む北太平洋沿岸部からシベリア北東部
・オーストラリア(とりわけ北西部)、ニューギニア(特に高地部)
・南北アメリカ大陸(特に北アメリカの西海岸や南米のアマゾン地域)
に分布しています。
これに対して、
”アフリカやユーラシアの中心部ならびにその西方に位置するヨーロッパは、言語の分布は非常に等質的で、それらの系統関係もはっきりしている。”
と述べています。
例外として、系統不明の言語は、
バスク語(フランスとスペイン国境)、ブルジャスキー語(パキスタン北部山岳地帯)・ナハーリー語(インド中央部)、カフカス(アジア中央部)
があります。
またその後の氏の著書「ことばを巡る諸問題」によると
ケット語(西シベリアのエニセイ川流域)
クスンダ語(東部ヒマラヤ地域)
も該当します(同書P249より)
以下に分布を示します。なお、日本語・朝鮮語・アイヌ語・ギリヤーク語は、環日本海諸語としています。ナハーリー語・クスンダ語は、地域が狭く場所も不鮮明なので記載してません。

分布に特徴があることが、よくわかりますね。そして主要な語族について、
”旧大陸を中心に広い地域に分布する印欧語その他の主要な語族は、それぞれの祖語の年代が、大体今から5,000~6,000年前に設定できる。つまり、人類が新石器時代の長い停滞期を終えて、新しい文明時代を迎える丁度その開幕期の頃に姿を現し、かなり短期化の間にその勢力範囲を拡張して、現在見るような語族の分布図を形作ったと考えることができよう。”(以上「世界言語のなかの日本語」(松本克己)P2-5より)
と述べています。
逆にいえば、日本語をはじめとする系統がはっきりしない言語は、それ以前に話されていた古層の言語ということになります。
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