日本語系統論(3)~日本語・タミル語同系説批判
前回は、”言語の同系性を推測するには、語彙の音形と意味が似ているという手法は限界がある。もっと内奥にひそむものに注目しなくてはいけない。”という話でした。詳細は今後お話します。
ところで日本語はいつどこから伝わったのか、というテーマについては、大野晋氏による「日本語・タミル語同系説」が有名です。タミル語とは、
"ドラビダ語族に属する言語。五千万人以上の母語人口がある。インドの公用語の一つ。南インドのタミル・ナード州、スリランカの北東部で話されている。"(精選版 日本国語大辞典 「タミル語」より)

大野氏は、
”この二つの言語 は
①文法構造が共通である。つまり両言語は共に膠着語に属する。そして助詞・助動詞に20個の対応がある。
② 単語に音韻対応の法則に支持された約500語の対応がある。
も少し具体的にいえば,
③ 助詞ゾ・カ・ヤの係り結びが、古代タミル語にも見出された。
④ 和歌 の575757…7という長歌の形式、57577という短歌の形式がタミル語の古典にも見出された。
こうした事実は従来の日本語系統論ではどこにも見出すことができなかった。”
と述べています。
さらにその伝わった時期について、
”縄文時代には、オーストロネシア語の一つの言語(① 簡単 な子音組織 ②a,i,u,oの4母 音③ 母音終 りという言語)を 使っていた。そこヘタミル文明が水田稻作・金属使用・機織という当時としての驚くべき新文明を もた らした。それを受け入れるにつれて、タミル語の単語と文法とを旧い音韻体系で受け入れた。つまりそこにCreoleとしての日本語が成立 した。”
(「言語研究(Gengo Kenkyu)120(2001)」P117~130、「タ ミル語 と日本語」より)
つまり大野氏は、「弥生時代に入り、水田稲作・金属器使用などの伝播とともに日本語のもととなる言語が伝わり、在来の縄文語を吞み込んでいった。」という主張です。時期としては、当時の認識ですから2000~2500年前といったところでしょう。
以上に対して松本氏は厳しく批判しています。
”大野氏のタミル語同系説は、基本的には、これまで多くの日本語系統説がそうであったように、対象言語と日本語の語彙の中から意味と音形が類似した単語を探索するという方法に基づいている。氏によれば、タミル語と日本語の間には、これまでに基礎語彙を中心に500近い「対応語」が見つかったという。問題は、これらのいわゆる対応語が、氏の主張されるように、分岐してから2,000年ないし2,500年というような素人目にもはっきり分かる親近な同系関係を裏づけるに足るものかどうかである。”
”同系説の証拠として示された約500の「対応語」は、対象とされた両言語の語彙全体から見れば、その5%にも満たない。
どんな言語の間にも音と意味が偶然に似通った類似語ないし疑似語というものが必ずあって、それが大体5%前後と言われている。従って、大野氏によって提示された500の対応語というのも、このような偶然の一致に由来する可能性が極めて高いのである。”(「世界言語のなかの日本語」(松本克己)P20-21より)
さらに「文法面での一致」についても批判しているのですが、専門的になりすぎるので割愛します。以上のとおり、松本氏は大野氏の説を、完全否定しています。
では「日本語・タミル語同系説」は全く間違っていると主張しているのかというと、そうではないのです。あくまで大野氏のいう2000から2500年前に伝わったという時期について、批判しているのです。「さらに古い時代までさかのぼれば、同系の可能性はある。」と述べています。
”現在世界で話されている人類のすべての言語が、何万年あるいが何十万年前に、アフリカのどこかで話されていた例えば”原始ホモサピエンス語”あるいは”人類祖語”というような単一言語に遡る可能性が決してないとはいえない。”(同書P31)
「原始ホモサピエンス語」あるいは「人類祖語」というテーマは興味深いテーマですので、いずれ取り上げます。
なお日本語との同系説については、「ウラル・アルタイ説」もありますが、それについても同様の観点から批判しています。
↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!
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ところで日本語はいつどこから伝わったのか、というテーマについては、大野晋氏による「日本語・タミル語同系説」が有名です。タミル語とは、
"ドラビダ語族に属する言語。五千万人以上の母語人口がある。インドの公用語の一つ。南インドのタミル・ナード州、スリランカの北東部で話されている。"(精選版 日本国語大辞典 「タミル語」より)

大野氏は、
”この二つの言語 は
①文法構造が共通である。つまり両言語は共に膠着語に属する。そして助詞・助動詞に20個の対応がある。
② 単語に音韻対応の法則に支持された約500語の対応がある。
も少し具体的にいえば,
③ 助詞ゾ・カ・ヤの係り結びが、古代タミル語にも見出された。
④ 和歌 の575757…7という長歌の形式、57577という短歌の形式がタミル語の古典にも見出された。
こうした事実は従来の日本語系統論ではどこにも見出すことができなかった。”
と述べています。
さらにその伝わった時期について、
”縄文時代には、オーストロネシア語の一つの言語(① 簡単 な子音組織 ②a,i,u,oの4母 音③ 母音終 りという言語)を 使っていた。そこヘタミル文明が水田稻作・金属使用・機織という当時としての驚くべき新文明を もた らした。それを受け入れるにつれて、タミル語の単語と文法とを旧い音韻体系で受け入れた。つまりそこにCreoleとしての日本語が成立 した。”
(「言語研究(Gengo Kenkyu)120(2001)」P117~130、「タ ミル語 と日本語」より)
つまり大野氏は、「弥生時代に入り、水田稲作・金属器使用などの伝播とともに日本語のもととなる言語が伝わり、在来の縄文語を吞み込んでいった。」という主張です。時期としては、当時の認識ですから2000~2500年前といったところでしょう。
以上に対して松本氏は厳しく批判しています。
”大野氏のタミル語同系説は、基本的には、これまで多くの日本語系統説がそうであったように、対象言語と日本語の語彙の中から意味と音形が類似した単語を探索するという方法に基づいている。氏によれば、タミル語と日本語の間には、これまでに基礎語彙を中心に500近い「対応語」が見つかったという。問題は、これらのいわゆる対応語が、氏の主張されるように、分岐してから2,000年ないし2,500年というような素人目にもはっきり分かる親近な同系関係を裏づけるに足るものかどうかである。”
”同系説の証拠として示された約500の「対応語」は、対象とされた両言語の語彙全体から見れば、その5%にも満たない。
どんな言語の間にも音と意味が偶然に似通った類似語ないし疑似語というものが必ずあって、それが大体5%前後と言われている。従って、大野氏によって提示された500の対応語というのも、このような偶然の一致に由来する可能性が極めて高いのである。”(「世界言語のなかの日本語」(松本克己)P20-21より)
さらに「文法面での一致」についても批判しているのですが、専門的になりすぎるので割愛します。以上のとおり、松本氏は大野氏の説を、完全否定しています。
では「日本語・タミル語同系説」は全く間違っていると主張しているのかというと、そうではないのです。あくまで大野氏のいう2000から2500年前に伝わったという時期について、批判しているのです。「さらに古い時代までさかのぼれば、同系の可能性はある。」と述べています。
”現在世界で話されている人類のすべての言語が、何万年あるいが何十万年前に、アフリカのどこかで話されていた例えば”原始ホモサピエンス語”あるいは”人類祖語”というような単一言語に遡る可能性が決してないとはいえない。”(同書P31)
「原始ホモサピエンス語」あるいは「人類祖語」というテーマは興味深いテーマですので、いずれ取り上げます。
なお日本語との同系説については、「ウラル・アルタイ説」もありますが、それについても同様の観点から批判しています。
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