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日本語系統論(12)~まとめ 人類祖語

 
ここまで「言語類型地理論」をみてきました。
その特徴として、
a.流音のタイプ
b.形容詞のタイプ 
c.名詞の数と類別
d.動詞の人称表示
e.名詞の格表示
f.一人称複数の包含・除外の区別
g.形態法上の手段としての重複
がありました。

こうした観点からみて、環太平洋沿岸言語圏は大きな特徴をもっており、さらに日本語を含む環日本海諸語の特異性がみえてきます。そしてそれらを世界の言語からみたとき、ひとつの大きな仮説が生まれます。

それは”太平洋沿岸言語は世界の言語のなかでも古い特徴をもっており、なかでも環日本海諸語はさらに古い言語の特徴を残しているのではないか。”、という仮説です。もっというなら、”環日本海諸語は、人類が10万年前以上にアフリカを出た人々が話していた言語の特徴を多く残しているのではないか。”という仮説です。

あらためてみてきましょう。以下は、特徴が鮮明なものです。

a.流音のタイプ
L音とR音の区別があるか、ないかです。日本語は区別がないですね。


流音タイプ分布
図でみると、単式流音タイプすなわちL音とR音の区別がないタイプの言語が、環太平洋に広く分布しています。さらに注目は、アフリカ大陸南半分において、ニジェール・コンゴ、コイサンの一部にも分布していることです。コイサン族がもっとも古い部族であることは、前にお話ししました。

b.形容詞のタイプ
日本語のように形容詞を動詞のように位置付ける形容詞用言型と英語のように名詞のように位置付ける形容詞体言型に分かれます。


形容詞タイプ分布
流音タイプと同様、環太平洋に分布しています。アフリカ大陸においても南半分のニジェール・コンゴとコイサンに分布しています。

d.動詞の人称表示
日本語のように主語が変わっても、動詞は変化しないタイプを人称無標示
主語が変わると動詞が変化するタイプを単項型人称標示
アイヌ語のように主語だけでなく、目的語の人称も変化するタイプを多項型人称標示
と呼びます。


動詞の人称標示タイプ分布

多項型人称標示は、流音タイプや形容詞タイプほど鮮明ではないものの、環太平洋に分布しています。アフリカ大陸南半分のニジェール・コンゴ、コイサンに分布するのも同様です。系統孤立語も多項型人称標示が多いですね。さらにシュメール語に代表される古代オリエントのいくつかの孤立言語も多項型人称標示と推測されています。
松本氏は、日本語ももともとは多項型人称標示であったと推測しています。

e.名詞の格表示
名詞の格標示のかなめとされるのは、"他動詞のいわゆる主語と目的語の標示に関わるもの"ということなのですが、たいへん難解です。詳細は前の「日本語系統論(9)~名詞の格標示」を参照ください。
タイプとしては
・対格型・・日本語
・能格型
・中立型A アイヌ
・中立型B

に分類されます。


名詞の格標示
図は能格型格標示の分布です。これまでのタイプの特徴のように、環太平洋と内陸部といったように明確に分かれているとは言い難いです。では古層と推測される中立型Aの分布はどうでしょうか?
次の表のとおり、アイヌ・ギリヤーク・チベットビルマ・北西カフカス・ケット・コイサン(中央)が該当します。ここで注目は、アフリカ大陸で古層の部族であるコイサンとアイヌ語・ギリヤーク語が同じであることです。

さらに松本氏は、日本語・朝鮮語も、もともと中立型Aではなかったか?推測しています。ということは、日本語・朝鮮語もかつてはコイサン語と同類だったということになります。



名詞の格標示
f.一人称複数の包含・除外の区別
1人称複数の「除外形」と「包含形」の区別です。
ここで、
・「除外形」とは、聞き手を除外して、話者と(話者と関係する)第3者からなる複数を指す。
・「包含形」とは、その中に聞き手を含む複数を指す。

包括人称欠如

包括人称の区別ある言語は、やはり環太平洋を中心に分布しています。注目はアフリカ大陸です。南半分のニジェール・コンゴとコイサンに分布があることです。さらに南インドのドラヴィダ語にもありますね。

g.形態法上の手段としての重複
「重複」とは、
語の全体または一部を繰り返すことによって、物や動作の反復、増幅、強調あるいは逆に軽減、縮小などを表す造語法ないし形態上の手法。”
です。
この特徴は
「人々」「山々」「国々」など日本語に顕著です。

重複法欠如分布としては、これまで同様、内陸部と太平洋沿岸部に画然と分けられます。
注目は、重複法のある言語として、シュメール語、ブルジャスキー語、そしてドラヴィダ語があることです。
そしてアフリカ大陸では、南半分のニジェール・コンゴ、コイサン語が挙げられます。

これに関して
”南インドのドラヴィダ語圏は、サハラ以南のアフリカとオーストラリア・ニューギニアという2つの重複言語圏の間にあって、あたかも両者をつなぐ橋渡し的な役割を演じているかのように見える。”(P168)
と述べていることは、前回お話ししましt。

つまり出アフリカを果たした人々が、南インドを通過して、環太平洋まで進出してきた足跡と一致しているわけです。

以上、特徴的なものを挙げました。ここで大きな仮説があることに気づかれたと思います。

”現在世界で話されている人類のすべての言語が、何万年あるいが何十万年前に、アフリカのどこかで話されていた例えば”原始ホモサピエンス語”あるいは”人類祖語”というような単一言語に遡る可能性が決してないとはいえない。”(同書P31)

この”原始ホモサピエンス語”あるいは”人類祖語”が存在したとすると、それが出アフリカ後に、南インドを通過して、環太平洋に伝わったということになります。その痕跡が、重複法の分布に残っていることになります。

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プロフィール

青松光晴

Author:青松光晴
古代史研究家。理工系出身のビジネスマンとして一般企業に勤務する傍ら、古代史に関する情報を多方面から収集、独自の科学的アプローチにて、古代史の謎を解明中。特技は中国拳法。その他、現在はまっている趣味は、ハーブを栽培して料理をつくることです。
著書です。



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