日本語系統論(13)~日本語はもっとも古い言語のひとつ!?
ここまで12回にわたって、松本克己氏の「世界言語のなかの日本語」論を読みながら、解説してきました。
松本氏は、
・環太平洋の言語は、ひとつのかたまりとでもいうべき特徴を備えている言語が多い。
・なかでも日本語・朝鮮語・アイヌ語・ギリヤーク語は韓日本海諸語と呼ばれる特異な特徴をもっており、系統不明である。
という説を提唱してます。
それらをさらに読み解き、
・環日本海諸語は古い歴史をもち、人類の祖先が10万年以上前にアフリカを出たときの特徴を残しているのではないか?
・アフリカからのルートは、南インドのドラヴィダ語族圏を通過し、環太平洋へともたらされたのではないか?
という仮説を提示しました。
これに関連して、別の視点から考察した興味深い論文があるので、紹介します。
「数理的手法を用いた日本語の系統に関する考察」(小橋昌明 ・田中久美子 東京大学工学部計数工学科 東京大学大学院情報理工学系研究科、言語処理学会 第 17 回年次大会 発表論文集 (2011 年 3 月))からです。
論文では、日本語の起源の仮説として、
a.アルタイ語族の一つ
b.オーストロネシア語族との関係
環太平洋言語圏・・中国語、ミャオ・ヤオ語族、タイ・ガダイ語族、オーストロアジア語族
c.タミル語
を挙げ、これらの妥当性を数理的手法に基づいて考察しています。
これらを
1.近隣結合法
2.最大節約法
3.ベイズ法
により系統樹を生成して、考察しています。
”日本の近くの孤立言語 (日本語と同様、どの語族に属するが判明していない言語) には、韓国語、アイヌ語、ギリヤーク語 (ニヴフ語) がある。この 3 つは考察の対象とする。第 2 節を踏まえ、以下の言語を考察する。
(1) アルタイ語はツングース諸語・モンゴル諸語・テュルク諸語の 3 つに分かれる。ツングース諸語、モンゴル諸語の中で WALS (The World Atlas of Language Structure)データが一番充実しているのは、それぞれエベンキ (エウェンキー) 語、モンゴル語である。この 2 つを対象に入れる。
(2) オーストロネシア語族の中で主な言語であり、WALS データも充実しているインドネシア語、タガログ語、マオリ語を対象に入れる。その他、日本の近くの大言語で、「環太平洋言語圏」の要素である中国語を入れる。
(3) タミル語、及びタミル語と同じドラヴィダ語族南部ドラヴィダ語派に属するカンナダ語を対象に入れる。
追加データとして、松本 からのデータ(「世界言語のなかの日本語」)も用いた。同書 pp. 188~191 の表をもとにデータを作成した。素性は流音のタイプ、形容詞のタイプなど全 10項目である。松本によれば、これらの素性は「手近な語彙項目や表面的な形態・統語構造ではなく、言語の
もっと内奥に潜みしかもそれぞれの言語の基本的な骨組みを決定づけるような言語特質、話し手の認知の在り方や言語によるそのカテゴリゼーション、言語のいわば遺伝子型に相当するような形質である」。”

3 つの手法で生成した系統樹は類似している。同じ語族の言語は系統樹の近い位置に出現する。これは、それぞれの手法の妥当性をある程度示していると言える。また、どの手法でも日本語に最も近いのは韓国語になった。
日本語の系統について、どの仮説が妥当か考えるために、それぞれの系統樹で日本語からの距離を計算する。各仮説に対応する 2 つないし 4 つの言語までの距離の平均を以下に示す。それぞれの手法で距離の定め方は異なるので、異なる手法の間で距離を比較するのは無意味である。
どの手法についてもアルタイ語族が一番距離が短く、ついでドラヴィダ語族、環太平洋言語(オーストロネシア諸語・中国語)の順となっている。

この結果からは、3 つの仮説の中では日本語がアルタイ語族の系統であることを 3 つの手法が共に示唆している。松本のデータは日本語と環太平洋言語圏との類似性を指摘するものであり、それを加味してもなおアルタイ語族が最も近い語族という結果になった。また、3 つの異なる手法で同様の結果が得られたことも確実性を高めたと言える。
とはいえ、この結果は言語間の親近性を示すものであり、当然ながらこれだけから日本語がアルタイ語族の一員であると断定はできない。実際にアルタイ語族の一つであるというためには、祖語の存在とそこからの分岐を説明する必要がある。
また、アルタイ語族が語族であるのか、語族とはどうあるべきかについても再検討の余地があるだろう。これについてはさらなる研究を行う必要がある。”
難しい表現ですが、要点としては
・日本語に一番近い言語は韓国語である。
・語族でみるとアルタイ語族、ドラヴィダ語族、環太平洋言語の順に近い。
です。
この結果をもとに、冒頭提示した
・環日本海諸語は古い歴史をもち、人類の祖先が10万年以上前にアフリカを出たときの特徴を残しているのではないか?
・アフリカからのルートは、南インドのドラヴィダ語族圏を通過し、環太平洋へともたらされたのではないか?
という仮説をみてみましょう。

松本氏は、
・環太平洋の言語は、ひとつのかたまりとでもいうべき特徴を備えている言語が多い。
・なかでも日本語・朝鮮語・アイヌ語・ギリヤーク語は韓日本海諸語と呼ばれる特異な特徴をもっており、系統不明である。
という説を提唱してます。
それらをさらに読み解き、
・環日本海諸語は古い歴史をもち、人類の祖先が10万年以上前にアフリカを出たときの特徴を残しているのではないか?
・アフリカからのルートは、南インドのドラヴィダ語族圏を通過し、環太平洋へともたらされたのではないか?
という仮説を提示しました。
これに関連して、別の視点から考察した興味深い論文があるので、紹介します。
「数理的手法を用いた日本語の系統に関する考察」(小橋昌明 ・田中久美子 東京大学工学部計数工学科 東京大学大学院情報理工学系研究科、言語処理学会 第 17 回年次大会 発表論文集 (2011 年 3 月))からです。
論文では、日本語の起源の仮説として、
a.アルタイ語族の一つ
b.オーストロネシア語族との関係
環太平洋言語圏・・中国語、ミャオ・ヤオ語族、タイ・ガダイ語族、オーストロアジア語族
c.タミル語
を挙げ、これらの妥当性を数理的手法に基づいて考察しています。
これらを
1.近隣結合法
2.最大節約法
3.ベイズ法
により系統樹を生成して、考察しています。
”日本の近くの孤立言語 (日本語と同様、どの語族に属するが判明していない言語) には、韓国語、アイヌ語、ギリヤーク語 (ニヴフ語) がある。この 3 つは考察の対象とする。第 2 節を踏まえ、以下の言語を考察する。
(1) アルタイ語はツングース諸語・モンゴル諸語・テュルク諸語の 3 つに分かれる。ツングース諸語、モンゴル諸語の中で WALS (The World Atlas of Language Structure)データが一番充実しているのは、それぞれエベンキ (エウェンキー) 語、モンゴル語である。この 2 つを対象に入れる。
(2) オーストロネシア語族の中で主な言語であり、WALS データも充実しているインドネシア語、タガログ語、マオリ語を対象に入れる。その他、日本の近くの大言語で、「環太平洋言語圏」の要素である中国語を入れる。
(3) タミル語、及びタミル語と同じドラヴィダ語族南部ドラヴィダ語派に属するカンナダ語を対象に入れる。
追加データとして、松本 からのデータ(「世界言語のなかの日本語」)も用いた。同書 pp. 188~191 の表をもとにデータを作成した。素性は流音のタイプ、形容詞のタイプなど全 10項目である。松本によれば、これらの素性は「手近な語彙項目や表面的な形態・統語構造ではなく、言語の
もっと内奥に潜みしかもそれぞれの言語の基本的な骨組みを決定づけるような言語特質、話し手の認知の在り方や言語によるそのカテゴリゼーション、言語のいわば遺伝子型に相当するような形質である」。”

3 つの手法で生成した系統樹は類似している。同じ語族の言語は系統樹の近い位置に出現する。これは、それぞれの手法の妥当性をある程度示していると言える。また、どの手法でも日本語に最も近いのは韓国語になった。
日本語の系統について、どの仮説が妥当か考えるために、それぞれの系統樹で日本語からの距離を計算する。各仮説に対応する 2 つないし 4 つの言語までの距離の平均を以下に示す。それぞれの手法で距離の定め方は異なるので、異なる手法の間で距離を比較するのは無意味である。
どの手法についてもアルタイ語族が一番距離が短く、ついでドラヴィダ語族、環太平洋言語(オーストロネシア諸語・中国語)の順となっている。

この結果からは、3 つの仮説の中では日本語がアルタイ語族の系統であることを 3 つの手法が共に示唆している。松本のデータは日本語と環太平洋言語圏との類似性を指摘するものであり、それを加味してもなおアルタイ語族が最も近い語族という結果になった。また、3 つの異なる手法で同様の結果が得られたことも確実性を高めたと言える。
とはいえ、この結果は言語間の親近性を示すものであり、当然ながらこれだけから日本語がアルタイ語族の一員であると断定はできない。実際にアルタイ語族の一つであるというためには、祖語の存在とそこからの分岐を説明する必要がある。
また、アルタイ語族が語族であるのか、語族とはどうあるべきかについても再検討の余地があるだろう。これについてはさらなる研究を行う必要がある。”
難しい表現ですが、要点としては
・日本語に一番近い言語は韓国語である。
・語族でみるとアルタイ語族、ドラヴィダ語族、環太平洋言語の順に近い。
です。
この結果をもとに、冒頭提示した
・環日本海諸語は古い歴史をもち、人類の祖先が10万年以上前にアフリカを出たときの特徴を残しているのではないか?
・アフリカからのルートは、南インドのドラヴィダ語族圏を通過し、環太平洋へともたらされたのではないか?
という仮説をみてみましょう。

やや古い地図ですが、こちらによれば、10万年ほどまえにアフリカを出た人類は、東西に分かれ、西に向かったグループは、インド北部に到達しました。さらに東南アジアまで進み、ここで北上するグループと南下するグループに分かれます。
北上したグループが、中国大陸から日本列島に入ってきましたが、2つのルートに示されます。一つは朝鮮半島から入ってきたグループ、もうひとつは樺太から南下してきたグループです。
これによれば、日本語に一番近い言語が、韓国語であるのは、当然でしょう。
また次に近いのが、アルタイ語族であるのも、合点がいきますね。
またドラヴィダ語族は、インドでの通過点付近ですから、近いのも説明がつきます。
本来であれば、オーストロネシア諸語や中国語のほうが、ドラヴィダ語族より日本語に近くてもよさそうですが、それはのちの時代に、その地域の言語が変化したからでしょう。
以上のように考えると、”日本語を含む環日本海諸語は、10万年以上前にアフリカを出たときの特徴を残している。”という仮説も、説得力が出てくるのではないでしょうか?
↓ 新著です。よろしくお願い申し上げます!!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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北上したグループが、中国大陸から日本列島に入ってきましたが、2つのルートに示されます。一つは朝鮮半島から入ってきたグループ、もうひとつは樺太から南下してきたグループです。
これによれば、日本語に一番近い言語が、韓国語であるのは、当然でしょう。
また次に近いのが、アルタイ語族であるのも、合点がいきますね。
またドラヴィダ語族は、インドでの通過点付近ですから、近いのも説明がつきます。
本来であれば、オーストロネシア諸語や中国語のほうが、ドラヴィダ語族より日本語に近くてもよさそうですが、それはのちの時代に、その地域の言語が変化したからでしょう。
以上のように考えると、”日本語を含む環日本海諸語は、10万年以上前にアフリカを出たときの特徴を残している。”という仮説も、説得力が出てくるのではないでしょうか?
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